AC切り換えにいち早く動いたのは花王

 いち早く動いたのが花王だ。社内に対策本部を立ち上げたのは地震発生直後の14日夜。花王の製品と言えば衣料用洗剤「アタック」や漂白剤「ハイター」など。日常生活に必要な製品ばかりで、そのCMも不謹慎な内容にはなりにくい。

 それでも「花王のCMは、普段の生活シーンを描くものが多い。何気ない日常こそが災害で奪われるため、その日常のシーンを被災者の方々にお見せするのは辛いのではないかとの考えから、放映を止めた」(広報部)。1週間程度の放映中止を要請する企業が多いなか、花王は報道特番と名前が付く番組では4月30日まで放映を中止する方針を広告代理店などに伝えた。

 同じく15日に自粛を決めた大手の生命保険会社は、新しいCMシリーズを16日から放映する予定だった。だが、5種類のうちの一つに、有名タレントが「保険というのは死と向き合うこと」と発言する内容があった。

 「強い言葉ではあるが、そこから目を背けられないのが我々の仕事と思って制作した。とはいえ実際に犠牲者がいるなかで被災者の心情に配慮するべきだと判断した」(広告宣伝課)。広告代理店に対し、別バージョンのCMに切り替えるか、間に合わなければACへの差し替えを申し出た。

一斉に自粛ムードに入るのは正常なことか?

 災害時の企業の対応に正解はない。CMを流せば不謹慎と批判される一方、行きすぎた自粛も消費者の反感を招きかねない。しかも、インターネットの普及で情報の送り手と受け手の関係性は一変している。従来なら消費者が心に抱くだけだった何気ない思いでも、ツイッターやフェイスブックに投稿され、火がつけば、大きなうねりとなって企業に跳ね返ってくる。

 今回、ある大手自動車メーカーの社内では「すべての企業が一斉に自粛ムードに入るのは正常なことだろうか」との議論が持ち上がった。念頭にあったのが2011年の東日本大震災だという。

 そこで再びCM総合研究所のデータを検証してみる。2011年3月11日、東日本大震災の発生当日に在京5局で流れたACの広告は1回。これは各局がCMを流さずに緊急の報道体制を敷いたためだ。特番の続いた3月12~13日には30回、353回にとどまるが、通常の編成に戻り始めた14日には約2500回に達した。

 3月17日の3557回をピークに、3月末まで1000回を超える異常事態が続いた。17日の場合、流れたCMの総数は約4200件なので、実にその日に流れたCMの85%がACだったことになる。今回とは桁違いだったことが分かる。

出所:CM総合研究所。対象は在京キー局。午前5時から翌日午前4時59分を1日として集計