三菱グループは再び支援するか
既に不正が発覚している軽自動車だけでも、三菱自動車の経営に深刻なダメージを与えることは確実だ。国内販売台数の半分近くが軽自動車で、その主力車種が店頭から当面消えることになる。
過去のリコール隠しやタカタのエアバッグ問題と違い、燃費の不正によって犠牲者が発生するわけではない。ただ、燃費など環境性能に応じて補助金や各種税金が免除される制度があり、事実と異なる数値を使って不正に優遇措置を受けていた可能性が高い。その場合は「(補助金などを)国や自治体に返納する形になるだろう」(品質管理と開発を担当する中尾龍吾副社長)。
加えて、軽自動車の供給先である日産への補償や、消費者や株主からの集団訴訟も考えられ、巨額のペナルティが発生する可能性が高い。業績への見込みについては「どのくらい影響が広がるか見通せない」(相川社長)。2016年3月期の決算発表を4月27日に予定している。
また今回、不正が発覚した軽自動車以外での国内市場向けのクルマについても2002年以降、テストコースでの走行実験において、国内法規で定められていたものとは違う方法で試験をしていたことも判明した。海外向けのモデルも含め、改めて調査して燃費や排ガスへの影響がないかどうかを報告する。対象となる車種数や台数が膨れ上がる可能性が残っている。
ここ数年の業績回復により、三菱自動車の財務体質は改善している。一時は9000億円以上の有利子負債があったが、現在では5000億円近い現金及び現金同等物を保有している。自己資本比率も47%と高い水準まで戻している。
ただ今後、補償や対策費用などで巨額な負担がのしかかれば、再び外部からの経営支援が必要な状況に陥る可能性がある。現在の筆頭株主は三菱重工で、間接所有も含めて、三菱自動車に約2割を出資し、持ち分法適用会社としている。ただ、グループ各社が支援した2004年当時とは違い、上場企業には高い資本効率や出資に関する説明責任が株主から強く求められている。三菱重工や三菱商事の業績が落ち込んでいることもあり、以前と同じような救済スキームは難しい。
三菱自動車はこれまで、ほかの自動車メーカーとの全面的な提携ではなく、個別の車種や技術を通じたアライアンスを進めてきた。今回の問題をきっかけに、上位メーカーの資本参加といった業界の再編につながる可能性もある。
新たな「パンドラの箱」となる可能性も
さらに今後の行方によっては、問題の影響が他社に広がる可能性がある。国交省は三菱自動車に対して不正の事実関係を4月27日までに報告するよう求めているが、ほかの自動車メーカーにもこういった事案がないか調査するよう指示し、5月18日までの報告を求めていく。
独フォルクス・ワーゲン(VW)の排ガスの不正操作問題では、同社の問題がきっかけとなり、実験室内だけでなく実走行による排ガス測定結果をより重視する方法へと各国のルールが変わりつつある。VWが排ガス測定の方法の「パンドラの箱」を開けた格好だ。
万が一、他社でも同じような不正が見つかるようなことがあれば、これまでの排気ガスや燃費の測定方法、当局による認定方法などの根底が揺らぐことになる。日本の自動車産業に与える影響も少なくない。
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