水曜は午後5時に“強制”退社」の理由を語った味の素・西井孝明社長インタビューの後編。働き方改革を掲げた中期経営計画の柱は、「サステナブル経営」への脱皮だ。グローバル展開には、社会課題の解決に取り組むことが不可欠と説く。欧米で広がる「MSG(グルタミン酸ナトリウム)」の風評払拭にも挑む。

(聞き手 大竹 剛)

<b>西井孝明氏</b><br /> 1982年、味の素に入社。2004年に当時不振事業だった家庭用冷凍食品の責任者に就き、業績を改善。09年には人事部長を務め、11年に執行役員に就任する。13年にはブラジル味の素の社長に就任し、ラテンアメリカ本部長として南米駐在。15年に、味の素歴代最年少(創業家を除く)となる55歳で社長に就任した。(写真:的野弘路)
西井孝明氏
1982年、味の素に入社。2004年に当時不振事業だった家庭用冷凍食品の責任者に就き、業績を改善。09年には人事部長を務め、11年に執行役員に就任する。13年にはブラジル味の素の社長に就任し、ラテンアメリカ本部長として南米駐在。15年に、味の素歴代最年少(創業家を除く)となる55歳で社長に就任した。(写真:的野弘路)

2月に発表した中期経営計画では、グローバルトップ10を目指すという目標を示しています。どのようにグローバルで存在感を発揮していく考えですか。

西井孝明氏:楽観的に聞こえるかもしれませんが、中期経営計画の根幹にあるのは、ネスレやダノン(仏ダノンCEO「人類の食、このままでは破滅」)が2000年代の初めから力を入れてきた、いわゆるサステナブル経営という考え方です。特にCSV(Creating Shared Value=共通価値の創造)を経営の軸に位置づけました。

 これはマイケル・ポーター教授(マイケル・ポーター教授が語るサステナブル経営)が提唱した概念ですが、実際にビジネスに最初に取り入れたのはネスレですよね。そして、サステナブル経営という方針に従って事業の選択と集中を進め、ビジネスのコアを明確にしたという点では、ダノンが優れていると思います。味の素も、こうした世界の潮流を意識し、前任の伊藤が2011年に掲げた中期経営計画から、2020年以降のできるだけ早い段階で、サステナブル経営においてネスレやダノンのようなグローバル企業の仲間入りすることを目指してきました。

 ただ、事業規模ではグローバルジャイアントにかないませんから、トップ10クラスの中でもきらりと光るユニークネスを発揮しようと考えました。実際、味の素もそうですが、サステナブル経営の重要なポイントの1つである地球温暖化対策などの環境対応では、日本企業も負けてはいません。むしろ、欧米企業よりも成果を上げている面もあります。

 ただ、そうしたサステナブルな視点を経営にどのように循環させていくのかという視点での発信力が弱かった。一言で言うと、グローバル競争の中で我々もやっているんだという目線が足りなかったわけです。

 過去、2つの中期経営計画で実施してきたのは、そうした視点でグローバルに発信するための土台作りでした。利益水準を上げ、事業の選択と集中を実施し、財務面で経営を改善してきました。もちろん、まだ十分ではありませんが、企業の体質はかなり筋肉質になってきたと思います。そこで、新たな中期経営計画では、目標である2020年が間近に迫ってくる中で、サステナブル経営を掲げるにはこのタイミングしかないと考えたわけです。

 2020年はゴールではなく、1つの通過点として、その先もサステナブルに成長するんだということを、全従業員とステークホルダーの皆さんに発信したかったのです。

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