忖度の文化が「長期絶対君主」を生む

退任会見では、顧問2人(右から後藤光男氏、佐藤信武氏)がセブン&アイの鈴木会長(一番左)の主張を擁護した(写真:的野弘路)

トップの意見に反対して、クビを切られたり飛ばされたりするのを恐れるというのは、良く聞く話ですね。

:そうした状況が長く続くと、やがて独裁君主が生まれてしまいます。ここで注意すべきなのは、長期政権すべてが問題なのではなく、「長期独裁君主」が生まれることが問題だということです。つまり、長期政権でも、独裁が生まれないようなガバナンスがあれば、問題ではありません。

 米ゼネラルエレクトリック(GE)は、そのいい例でしょう。GE前会長のジャック・ウェルチ氏はトップに20年君臨しました。現会長のジェフ・イメルト氏も、トップに立って既に約15年になります。GEは現在、16人の取締役のうち15人が社外で、社内取締役はイメルト氏のみ。社外取締役が株主の意見を代弁する形で、いつでもトップを解任できる体制にあります。

 社外取締役を取締役会に入れなければならないのは、社内取締役だけだと、トップの言うことに反論することが難しいからです。社内取締役はいわば、社長や会長の部下です。日々、上司にレポートしている部下が、上司を律することは現実的にはハードルが高いでしょう。

 だからこそ、社内の取締役に代わってトップを律するために、社外取締役が重要なのです。現在、東証一部上場企業の取締役の平均人数は9人ほどで、その中で社外取締役は2人程度です。まずは2人からスタートして、その数を徐々に増やしていき、3分の1以上を社外取締役にすることが望ましいでしょう。10年後には社外取締役の数は取締役の過半数にするくらいに引き上げていくべきではないでしょうか。

 多くの日本企業では、取締役会が儀式になってしまっているのが実態です。事前の根回しを重視し、全会一致を目指したがります。しかし、本来、取締役会は反対意見があって当然です。緊張感のある議論をするためには、社外取締役が不可欠です。

後継者指名は企業統治の一丁目一番地

鈴木会長がセブン&アイのすべての役職から退任する意向を表明したことで、誰がセブン&アイのトップを引き継ぐのか、注目を集めています。セブンイレブンという子会社トップの人事が、突然、持ち株会社トップの人事問題にすり替わってしまいました。

:本来であれば、一子会社のトップの人事案が取締役会で拒否されただけですので、親会社のトップが退任するような話ではありません。しかし、結果的に鈴木会長が退任を表明されたことで、突然、セブン&アイのサクセションプラン(後継者の育成・指名計画)が問われる事態になりました。ガバナンスでもう1つ大切なのは、まさにこのサクセションプランです。

 後継者指名は、企業統治の一丁目一番地の課題です。そのため、サクセションプランは周到に準備しておかなければなりません。例えば、3段階の時間軸で、後継候補者をリストアップしておくことも有効でしょう。突然の事故などで急きょ、経営を引き継がなければならなかった場合、3年後に引き継ぐ場合、5年後に引き継ぐ場合、といった具合です。

 後継者の育成は、実は日本企業のほうが欧米企業よりもうまくいくのではないかと考えています。欧米企業では、人材の流動性が高く、優秀な人材は高額報酬を提示されて引き抜かれてしまう可能性も高い。せっかく、後継者として育成し、継承プランで候補者リストに挙げていても、引き抜かれてしまうリスクに常にさらされています。その一方で、日本は人材の流動性は低いですから、じっくり育てても引き抜かれにくい。

 昨年6月にコーポレート・ガバナンス・コードが導入され、サクセションプランについても経営トップが取締役会で説明しなければならなくなりました。一方、取締役も社長にしっかりとしたサクセションプランを作るように求め、監督する義務があります。今回のセブン&アイの一件は、サクセションプランの重要性を多くの経営者に改めて気付かせるきっかけになるのではないでしょうか。