セブン&アイ・ホールディングスは本日の取締役会で新たな経営体制を決定する予定だ。同社子会社セブン―イレブン・ジャパンの社長人事を巡る混乱は、日本企業が抱えるコーポレートガバナンスの課題を浮き彫りにした。その最大の問題点は、「トップの意向を忖度する文化」だ。ガバナンス問題に詳しいエゴンゼンダーの佃秀昭社長に話を聞いた。

エゴンゼンダー代表取締役社長。東京大学法学部卒業後、1986年三和銀行(現三菱東京UFJ銀行)に入行。2000年エゴンゼンダー入社。2010年から現職。主に取締役会改革、最高経営責任者等の後継者計画、経営陣のリーダーシップ開発、次世代経営人材の評価・育成、社外取締役・経営幹部の招聘などに従事。金融庁と東京証券取引所による「スチュワードシップコード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」メンバー
セブン-イレブン・ジャパンのトップ人事をめぐる混乱で、セブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文会長兼CEO(最高経営責任者)が突然、退任を表明したことは、ビジネス界に大きな衝撃を与えました。鈴木会長の退任会見から、コーポレートガバナンス(企業統治)に、どのような課題が浮かび上がりましたか。
佃:まず、コーポレートガバナンスの目的とは、経営者を律することにあります。会見の様子を日経ビジネスオンラインの記事で読んだだけですので、内部でどのようなことが実際に起きていたのか、詳細は分かりません。それでも、いくつか日本企業が抱えるガバナンス上の課題が浮き彫りになったと思います。
まず私たちは、「権力は腐敗する」という前提に立ってガバナンスを構築しなければなりません。特に日本では、長期政権になるほど周囲がトップの意向を忖度するようになり、トップは裸の王様になりがちです。トップの部下である取締役はもちろんですが、顧問のような本来経営には関係のないはずの人物まで、トップの意向を忖度して動くにようなる。そうなっては、経営者に対する牽制機能、つまりガバナンスは機能しません。鈴木会長の退任会見からは、セブン&アイのそうした実態が浮き彫りになりました。
セブン&アイの4月7日の取締役会について言えば、重要なポイントの1つは、人事案に対して匿名で投票を行ったことです。これはガバナンス上、取締役会を正常に機能させるためには、非常に良い判断だったと思います。通常、取締役会では挙手によって議案に対する賛否を問うことが多いのですが、もし仮に挙手で人事案に対する賛否を問うていたら、どうなったでしょうか。鈴木会長の部下として尽くしてきた社内の取締役が、反対、もしくは白票を投じることができたかどうか。今回、人事案が否決された隠れたポイントは、「匿名による投票」があったと思います。
そしてもう1つが、指名委員会を設置していたことの効果です。セブン&アイの指名委員会は法的根拠があるものではなく、あくまでも諮問機関としての委員会ですが、この指名委員会があったことで鈴木会長による人事案への反対意見が議論されました。指名委員会の議論が、社内取締役に対して「委員会の議論を踏まえて判断をしなければならない」というプレッシャーになったのではないでしょうか。これは、ガバナンスの観点から一歩前進と評価して良いでしょう。
後継者指名はトップの専権事項ではない
セブン&アイの指名委員会は、鈴木会長の人事案に反対しましたが、鈴木会長は主張を曲げず、そのまま4月7日の取締役会にその案を諮りました。諮問機関とはいえ、指名委員会の議論が無視された格好でした。
佃:ここで重要なのは、指名委員会では委員である社内取締役と社外取締役が同じ土俵で人事案を評価できるように、議論の土台を共有する必要があるということです。委員の主観ではなく、業績や部下による評価など客観的なデータを集めて、それに基づいて議論しなければなりません。
指名委員会を設置する会社は増えてきていますが、形だけ作っても機能しません。重要なのは、役員人事をトップの専権事項にしてはいけないということです。多くの日本企業のトップは、後継者選びを含む役員人事を、自分の専権事項だと考えています。それこそが、権力の源泉だと考えられているからです。しかし、それは大きな間違いです。正しいガバナンスとはまず、後継者を含む役員の指名権を、トップの専権事項から引き離し、客観的評価に基づいて委員会で議論して決めることです。
後継指名の権限をトップが握っている限り、トップの意向を忖度する文化は無くなりません。東芝問題も、本質的にはトップの意向を忖度する文化が背景にあったのでしょう。「チャレンジ」という名の下で利益計上のために部下に無理を強いたのは、忖度の文化そのものです。
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