矛盾(3):持続可能でない対外赤字とドル高の併存

 3つめは、かなり長い視点に立ってのことだが、財政赤字、及び、それに伴う経常赤字とドル高の併存は、長期的に持続可能ではない、という点だ。

 財政支出の拡大とインフレの進行は、最終的には当事国通貨の価値を毀損させる。将来的な話とはいえ、そうしたリスクを抱えている通貨ドルに対し、大統領自らが場当たり的な口先介入で闇雲にドル安誘導を行うことは、場合によっては、ドル安が無秩序なものに発展する危険性を伴う。基軸通貨であるドルに仮にそのような事態が発生した場合、金融市場のみならず、世界経済が大きく混乱するリスクがあるだろう。

トランプ政権下での初の「為替報告書」の含意

 最後に、トランプ政権下で初めて発表された米財務省の「為替報告書」に触れておきたい。トランプ大統領の公約に反して「中国の為替操作国認定」が見送られたことが大きく報道されている。しかし、丁度一年前にオバマ政権下で導入された「為替監視国リスト」作成と「為替操作国認定」のクライテリア3項目は、言うまでもなく、米財務省自らが設定したものだ。2項目でリスト入り、3項目で操作国認定という手続き上、この基準項目などを変更しない限り、1項目しか抵触していない中国を操作国として認定することはできない。

 先のオバマケア代替法案提出の断念に続き、公約であった中国の為替操作国認定が見送られたことは、報道などにある通り、トランプ大統領の政治資本のそもそもの低さ、あるいは、減退を意味しているかもしれない。しかし、考えようによっては、トランプ大統領が議会や官僚に耳を傾ける、ある意味政権運営の正常化の事例の一つと取れなくもないだろう。

 なお、今回「為替報告書」を見る限り、日本に関する指摘に目新しさや切迫感は特に見て取れない。報告冒頭の監視国に関するレビューのサマリーにおいても、後段の詳しい記述部分でも、日本に対しては繰り返し「貿易不均衡の背景となっている低成長や低インフレの長期化を是正するために、従前の金融緩和と財政出動に加えて、労働市場等を中心に構造改革をより強力に推進し、生産性の向上などを目指すこと」が指摘されているにとどまる。

 トランプ政権の財政・金融政策は本質的に「ドル高型」であり、米当局による口先のドル安誘導には無理がある。そして、米財務省「為替報告書」において、少なくとも日本については為替水準ではなく構造改革推進の必要性が強調されていたことなどに鑑みれば、この先の口先介入による円高ドル安進行には限界があるように思われる。

 口先介入による円高ドル安誘導に限界があるならば、別の言い方をすれば、一段の市場開放や障壁削減への圧力は予想以上に高まる可能性があるのかもしれない。それほど、トランプ大統領誕生以前から「輸出振興・通商保護」に傾斜していた米国の経済保護主義の根は深い。

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