矛盾(1):トランポノミクス効果を実感できないトランプ支持者

 1つ目は、“トランポノミクス”が掲げる財政刺激・減税・規制緩和が米ドル金利や米ドル相場へ与える作用は基本的に「金利上昇・ドル高」だが、それは、トランプ大統領誕生の原動力となった支持者層、すなわち製造業が集積する中西部“ラスト・ベルト”の低所得労働者に直接的なメリットをもたらさない。そればかりか、デメリットも大きいという点だ。

 財政刺激については、公共投資の「真水」規模や主たる投資対象が未だ判らず、他方、規制緩和策は主として金融と環境に集中している。また、昨年来、共和党が提起している法人税改革「国境調整税(BAT)」では、輸入品への課税・輸出品への課税免除などを通じ貿易赤字を縮小させ、国内調達が増えることで結果的に、雇用増加に繋がることなどが企図されている。

 しかし、その目論見が実感されるよりも前に、輸入製品の価格上昇が顕在化することで、「ラスト・ベルトのトランプ支持者」は国内物価の上昇と実質所得の低下を通じ、生活コストの上昇=窮乏化に直面することになるだろう。また、BAT導入は、理論的には「輸入関税と同率程度のドル高が進む」ことを意味している。ドル高は米製造業にとって、無論、マイナス要因である。

 彼らがトランポノミクスによって実は今よりも窮乏化するリスクに気付けば、トランプ大統領の支持基盤は崩れていく。政権発足から「100日のハネムーン」(4月30日まで)が終わりに近づいたこのタイミングでトランプ大統領があからさま過ぎるドル高牽制に動いた背景には、こうした支持層に対する一定の配慮があったことも考えられる。

矛盾(2):ドル高の背景はFRBによる金融政策正常化推進

 2つめの矛盾は、トランプ大統領が「強くなり過ぎている」とコメントした目下のドル高をもたらした最大の要因は、実はFRBによる金融政策正常化=利上げ推進にある、という点である。ドル相場は実質実効相場でみて確かに約30年ぶりの高値水準にあるが、そこに至るドル高を招いたのは、FRBの金融政策と上述の“トランポノミクス”への期待であり、つまり、今のドル高は米国自らがその原因を生み出した結果と言える。

 冒頭のトランプ大統領発言に加えて、シリアや北朝鮮情勢など地政学的リスクの高まりも相まって円高が進んでいる。こうした「安全資産への逃避」が進む中でも、米債利回りは昨秋の米大統領選挙後の下限水準を割り込んでおらず、それはやはり、米ドル金利の先高感が市場にしっかり根付いているから、と思われる。織り込み済みとはいえ、この先年内に追加で2~3回の利上げが想定される米金融政策とその結果としての日米金利差などを考えれば、口先介入でのドル安円高誘導には自ずと限界があろう。

 ドル高の背景と是正アクションを日本に求めることには本来的に無理があり、それは本邦当局が承服しないという以上に、「FRB利上げ推進→ドル高定着」の道理が変わらない以上、無理は通らないということになるだろう。FRBは次のステップとしてのバランスシート縮小=国債購入の再投資停止に言及するなど、正常化推進にいよいよ本腰を入れている。米国とそれ以外の国や地域の金融政策のダイバージェンスが続く限り、抜本的なドル高是正は難しく、いくら口先介入の語気を強めたところで、その効果は一時的に留まる可能性が高い。

出所:BIS(国際決済銀行)
出所:BIS(国際決済銀行)

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