三菱重工業の子会社、三菱航空機の新社長に4月1日付で水谷久和氏が就任した。国産ジェット旅客機「MRJ(三菱リージョナルジェット)」を手掛ける同社は、1月下旬に5度目となる初号機の納入延期を発表したばかり。就任お披露目の記者会見を開いた水谷氏は「(2020年半ばの納入開始という)現在のスケジュールをきっちり守ることが最優先」と強調した。

 これ以上の開発の遅れは苦労して獲得した顧客の離反を招く恐れがあり、事業の存続そのものが危ぶまれる事態に発展しかねない。陣頭指揮にあたる5代目社長の水谷氏に課せられた責任はかつてなく重い。

三菱航空機の社長に就任した水谷久和氏(撮影:早川俊昭)
三菱航空機の社長に就任した水谷久和氏(撮影:早川俊昭)

 愛知県豊山町の三菱航空機の本社近くで開いた記者会見。水谷氏は開口一番、同社の拠点でサプライヤーも多い愛知、名古屋と自らの縁を語った。三重県出身で名古屋大学経済学部卒業、三菱重工では初任地でもある名古屋航空宇宙システム製作所に累計27年在籍。近隣の名古屋誘導推進システム製作所も含めれば、42年間の会社員人生で名古屋勤務が32年に達するまさに地元。ヘリコプターやミサイルなど防衛関連で事務方として調達などを担ってきた。ここ10年は本社勤務で、直近は防衛・宇宙事業の担当役員だった。

険しい前途

 平時ならばホームタウンへの凱旋ともいえそうだが、水谷氏が「防衛事業と民間機は環境が異なり、自分なりに緊張感と期待をもって就任した」と語るように、三菱航空機は厳しい経営環境におかれている。

 就任直後ということで、当初は「人柄の紹介などに力点を置きたい」(広報)としていたものの、質疑応答で挙がった質問は人柄についてはほぼ皆無。事業の進捗や先行きに関する内容に終始した。

 三菱重工は1月、宮永俊一社長が開いた記者会見で、2年の納入延期と新たなスケジュールを発表した。商業運航に必要な「型式証明」を航空当局から円滑に取得するには、設計変更などで機体の安全性をさらに高める必要があると判断したという。同時に、今度こそ納期を守るため社長交代を含む三菱航空機の体制一新、さらには航空機開発に熟達した外国人技術者への思い切った権限移譲などの対策も公表している。

 こうした状況があるからこそ、水谷氏は会見で慎重に言葉を選びながら、状況を説明した。

2020年半ばの初号機納入を目指すMRJ(三菱航空機提供)
2020年半ばの初号機納入を目指すMRJ(三菱航空機提供)

 MRJの開発に手間取っている背景について水谷氏は「民間機開発の経験にすごく間が空き、慎重に慎重を期して進める(防衛省向けに培ってきた航空機開発の)やり方も影響した」と指摘。マーケットでの競争が前提となる民間機開発に必要なスピード感や専門的な知見が十分ではなかったとの見解を示した。

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