1万円の賃上げと働き方改革の2年前倒しはセット

労働時間が削減されると、残業代の減少を危惧する声もあります。日本では、残業代をもらえることを前提に、生活を設計している家庭も少なくありません。

西井氏:確かに、そういう声も聞こえてきました。やはり残業代が生活費の一部になっていて、当てにしているようです。その状況を改善しなければ、改革は上手くいかないでしょう。そこで2年前倒すことについて、労使合意できそうだという感触が持てた時点で、働き方改革による生産性向上でもたらされた利益は、人材に還元しようと決めました。

 還元の仕方の一つが報酬で、もう一つが働き方改革を進めるためのインフラ投資や教育です。非正規も含めた従業員に関わるところに還元します。

その報酬が、4月から実施された月額給与の一律1万円のベースアップですね。

西井氏:1万円のうち、半分は純粋なベースアップです。2018年度に労働時間が1800時間になることを前提にすると、残業代は減ります。今年度は1800時間までいきませんが、先に還元することで、「安心して働き方改革に取り組んでほしい」という経営の意志を示しました。残りの5000円は、諸手当を見直すことで、若い世代にこれまで以上に報いる制度に切り替えました。

 1万円は、組合側も「痛みを伴う改革に対して必要」と考えていた水準でした。ただ、2016年度の決算が減収減益という見通しの中で、組合として1万円というベースアップを要求しても、経営側は受け入れないのではないかと思っていたようです。

 それでも私は、「満額で応えるよ。その代わり、組合としても働き方改革をしっかりと後押しする覚悟を見せてほしい」という話をしたところ、組合から「2年前倒しでやりましょう」という提案が来ました。いいキャッチボールができたと思います。

年間総実労働時間の削減を2年前倒すことで、どのような効果が事業面で表れてくるのでしょうか。

西井氏:定量化することは難しいのですが、ガバナンスの向上という観点で効果があると思います。間違いなく良くなるのは、健康増進です。健康診断のデータや、メンタルヘルスが改善されるでしょう。

 働き方改革をすることで、人材の力を発揮してもらい、いろいろな才能をもつ「タレント」に来てもらいたい。その効果が出るまでには、少し時間がかかるかもしれません。しかし、優れた人材が集まれば結果としてイノベーションが生まれ、成長にもつながります。1800時間の達成を2年前倒すことで、イノベーションを生み出す職場環境の整備が加速することを期待しています。