米リフトCEO「評判の悪いウーバーとは違う」
ライドシェア大手「リフト」のグリーンCEO、日本メディアに初登場
一般の自家用車で乗客を運ぶライドシェアで、米リフトの戦略に世界の注目が集まっている。
ライバルの米ウーバーテクノロジーズが世界各地で規制当局やタクシー業界とぶつかり合うのに対して、リフトは規制当局や自動車産業とも協調路線を取っている。
楽天や中国のアリババ集団などから20億ドル(2200億円)以上を調達している。今年1月には自動車大手の米ゼネラル・モーターズ(GM)から5億ドル(約550億円)の出資を受け入れた。
GMが割安でリフトの運転手にクルマを貸し出す「エクスプレスドライブ」というサービスを3月からシカゴで始めた。GMとの提携で運転手を確保しやすくし、サービスを広げる狙いがある。
リフトは全米190以上の都市でサービスを展開し、ウーバーと激しく争い、米国では認知度が高い。中国やインド、東南アジアの同業と提携して世界展開を図っているため、その実態は日本ではあまり知られていない。
新経済連盟主催の「新経済サミット2016」に出席するために来日したリフトのローガン・グリーン(32)共同創業者兼CEO(最高経営責任者)に話を聞いた。日本メディアには初登場となる。
ローガン・グリーン氏。米リフトの共同創業者兼CEO(最高経営責任者)。32歳。米ロサンゼルスで育つ。カリフォルニア大学サンタバーバラ校在学中に初めてのカーシェアリング・プログラムを立ち上げ、サンタバーバラ郡都市圏交通局(MTD)の理事も務めていた。留学先のジンバブエで近隣や地域の人々の間での相乗りが通常の交通手段として使われていたことにより着想を得て、2007年にリフト前身のZimrideを設立。2012年にジョン・ジマーCEOと共にリフトを設立した。(撮影:木村輝)
日本でもライドシェアへの認知が広がってきましたが、企業としてはやはり米ウーバーテクノロジーズが有名です。そのウーバーと米国で激しく競争しているリフトは、どんな特徴がありますか。またウーバーとの違いは何ですか。
グリーン:リフトは2012年に創業し、今は米国のみでサービスを展開しています。200以上の都市で、月間1000万回の乗車、登録ドライバーは31万5000人になります。
ウーバーとの違いは、運転手に対する待遇や、新しい市場への参入の仕方が違います。
我々のビジネス展開では人が核となり、運転手にもいい待遇をしたいと考えています。
運転手をハッピーにすることで、乗客もハッピーになる。私とリフトを一緒に創業したジョン・ジマーCEOは、米コーネル大学のホテル経営のコースを取っていて、我々のサービスはホスピタリティを重視しています。
一方のウーバーは、運転手をあくまで商品と考えており、できるだけコストを下げようとしています。そのため、運転手はアンハッピーになり、サービスの質も下がってしまいます。
ウーバーは巨額の資金調達をしていて、世界の多くの都市でサービスを展開していますが、必ずしも成功している訳ではありません。中国やインド、東南アジアでは大きな投資をしていますが、うまくいっていません。
兼務の運転手に聞くと8割がリフトを支持
運転手の処遇に関して、両社には具体的にどのような差がありますか。
グリーン:ハードとソフトの2つの面で差があります。米国のサービスでは一般的なチップについて、ウーバーは受け取りを認めていませんが、リフトはOKとしています。
リフトの運転手には、主たる収入源としてフルタイムで働く人と、パートタイムの人がいますが、フルタイムの運転手には手数料を払い戻しています。パートタイムの運転手には、その日のうちに支払いができます。
2つ目の違いは米ゼネラル・モーターズ(GM)と提携して始めた「エクスプレスドライブ」です。通常は1年くらい経過したクルマを週ごとにレンタルしますが、フルタイムの運転手であれば無料で借りられます。
我々はどんどん技術を改善し、運転手の待遇改善につなげています。
ソフトの面では、運転手とのコミュニケーションを密にとっています。我々のサービスは急激に変化しますので、変化があった際にはすぐにお伝えするようにしています。
我々の文化としては、運転手に尊厳を持って対応することを心がけており、運転手には乗客とフレンドリーに接してほしいとお願いしています。
具体的なデータがあります。ウーバーとリフトを兼務している運転手にアンケートをとると、8割以上がリフトがいいと答えているのです。
米ゼネラル・モーターズがリフトと資本提携したことは、自動車業界に衝撃を与えた
GMは課題の都市部を攻略できる
1月にGMがリフトに5億ドル出資したことは大きなニュースになりました。提携はどこまで進んでいますか。
グリーン:1月に10億ドル(1100億円)を増資し、そのうちGMが5億ドルを引き受けてくれました。
具体的には今年3月にシカゴでGMと新サービス「エクスプレスドライブ」を始めたばかりです。100台を用意すると、1週間で埋まってしまい、今は1000人の順番待ちのリストがあります。非常に人気があるプログラムなので、全米に展開していきたいと思います。
最もワクワクするのは、GMと10年後の世界のビジョンを共有していることです。
今はクルマを所有することが前提となっています。保険、給油、駐車などをそれぞれ別の会社と契約しています。
今ではスマホをクリックして手配できるようになりました。10年後には自動運転が普及していると思います。
両社が合意していることは、交通サービスのビジネスを拡大していくという点です。交通サービス市場は世界で年間10兆ドル(1100兆円)になると言われており、そのうち2兆ドルが米国です。
エクスプレスドライブは両社の協業の第1弾です。今は通常のクルマを提供していますが、将来的には自動運転車になると思います。
ただ、完全自動運転の世界になるには道のりが長く、この2~3年では一部で自動運転が導入されるでしょう。完全に舗装されて、天気がいい時などに短距離で自動運転が導入されるでしょうが、天気が悪い時や長距離では、運転手が運転するでしょう。
徐々に自動運転に切り替わっていて、完全な自動運転になると思います。
GMは先見の明があります。米国での収益源は郊外で使われる大型のピックアップトラックです。自動運転を使ったライドシェアは都市部で先行するので、都市部での市場を抑えることができるのです。
GMが成功するために3つの要素が必要です。1つ目は規模で、これは問題ありません。2つ目はセンサーやAI(人工知能)です。同社は(シリコンバレーの自動運転ベンチャーである)クルーズ社を買収し、体制を整えつつあります。3つ目はリフトが提供するライドシェアなどのネットワークです。GMはこれらの3つをそろえようとしています。
クルマの売上高は減るが、交通サービス市場は拡大する
自動車メーカーはライドシェアで既存の収益モデルが破壊される懸念を持っています。自動車を所有しない人が増え、販売台数が減る可能性があるからです。
グリーン:これからクルマを保有するというモデルがなくなり、全体のクルマの売上高は減るでしょう。1台のクルマを多くの人で共有することになりますから。
しかし、人々がクルマをより安く、使いやすくなることで、クルマを使う機会は増え、交通サービス市場自体は拡大していくでしょう。
ライドシェアは社会的に3つの大きな意義があります。
1つは社会的にみんなをつなげ、住みよい都市になります。
2つ目は経済性です。クルマを所有すると大きな費用がかかりますが、乗った分だけ払うことができます。
3つ目は環境配慮です。電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)は、初期投資がかかり回収まで時間がかかる課題があります。
ただ、クルマのライフサイクルを考えると走行距離当たりの価格は安価です。最初の2~3年間に集中的にEVやFCVを使えば、投資の回収までの時間を短縮することができ、こうしたクルマの普及にも寄与できるのです。
私は米ロサンゼルスで育ちましたが、大きな高速道路や駐車場がたくさんあり、クルマを中心に都市が設計されていました。
ライドシェアや自動運転が普及すれば、1台のクルマを多くの人で共有するため、クルマが少なくなります。クルマを中心ではなく、人を中心とした都市になり、住みよい場所になるのです。
リフトは楽天のほか、中国のアリババ集団や騰訊控股(テンセント)、米ベンチャーキャピタルのアンドリーセン・ホロウィッツなどからも出資を受けている
ウーバーと違い、規制当局と協力しながら参入する
ライバルのウーバーは積極的に海外展開を進めています。リフトはどのような戦略を描いていますか。
グリーン:グローバルでは、地域ごとに最大手と提携しています。中国ではディディ・クアイディ、インドではオラ(ANIテクノロジーズ)、東南アジアでは(シンガポールの)グラブと提携し、これからもっと加えていきたいと思っています。
間もなく、中国でもスマートフォンでリフトのアプリケーションを使って、中国のディディのサービスを利用することができます。
リフト自身が独自に海外展開することは考えていませんか。
ローガン:それぞれ市場で強いパートナーと組んでいますが、そうした企業がない市場には進出する可能性があります。
三木谷さんから日本市場を学んでいる
日本市場の可能性をどう見ていますか。
昨年、楽天さんからの出資を受け、三木谷浩史社長にリフトの取締役に就いてもらい、三木谷さん経由で、日本市場を学ばせてもらっています。
日本のタクシーは世界でもベストのクオリティーだと思います。運転は素晴らしいし、クルマ自体が清潔に保たれています。都市部ではタクシーがかなり集中して使われています。
しかし、日本のみなさんとお話しますと、懸念されていることがいくつかあることが分かります。
例えば、雨の時、早朝、郊外、金曜の夜などなかなかタクシーが探せない時間帯があります。2020年の東京五輪に向けてインバウンドのお客さんが増えた時には、タクシーがさらにつかまらなくなる懸念があります。
2つ目は、タクシーの料金が高いという課題です。
これも我々のライドシェアで解決できます。ダイナミックな価格決定メカニズムを使っているので、タクシーの需要が少ない時は料金が下がります。一方で非常に需要が多い時には料金が上がり、他のドライバーが入ってきます。
こういった様々な経験から学んだのは、政府はあまり価格決定のメカニズムに関与しない方がいいということです。関与しない方が市場はより効率的になります。政府は基本的にそうしたスタンスを取っているのですが、タクシー業界は例外的な扱いになっています。
安全性の担保は政府と我々にとっても最も優先順位が高いことです。
リフトと組むと、タクシー業界ではできないことが可能になります。タクシードライバーはどんな人で、事故歴、どんな運転をするか分かりません。その人に命を預けることになります。
リフトの場合は、ドライバーがアカウントを持っているので、電話番号など個人情報を知ることができます。クルマ自体にGPSが付いているので、毎秒トラッキングできるようになります。
そうしたことから運転手と乗客の安全性を担保できます。
終着点に着いた時には、運転手と乗客がお互いに評価をします。そこに何か問題があれば、改善点を探ることができます。
こうした安全性と信頼性、経済性などが高まってライドシェアが広まっており、日々の生活や交通に大きな変化をもたらしているのです。
サンフランシスコの街では、タクシー業界の市場の7倍までライドシェアの市場が拡大しました。これは、新規雇用が何十万人も増えたことを意味します。
日本市場へのアプローチは、どのような計画がありますか。
グリーン:今のところ発表できる計画は持っていません。ただ、新しい市場へのアプローチとして、競合他社のウーバーのように規制当局と折り合いがつかず、悪い評判を生み出すのではなく、その反対に当局と協力しながらの参入を目指します。
というのは、最終的には規制当局も我々も目指すゴールは同じだと考えるからです。
私は以前、行政機関で交通政策を担当していました。民間にしかできないことがあると考えてリフトを創業しましたが、立場が変わっても目指すゴールは同じです。
Powered by リゾーム?