4月6日、マネックスグループは仮想通貨交換業者のコインチェックを買収すると発表した。約580億円もの仮想通貨を流出させ、その行方が注目されていたコインチェック。支援にはヤフーや大和証券グループ本社といった企業の名前も取りざたされたが、通貨流出に伴う訴訟リスクなどもあり話はまとまらなかった。
最終的に射止めたマネックスはそうしたリスクや仮想通貨の先行きにどんな姿を描いているのか。同社を率いる松本大・社長CEO(最高経営責任者)が、買収発表後、初めてメディアのインタビューに答えた。(日経ビジネス4月23日号にインタビュー全文を掲載予定)
仮想通貨事業を取り込み「金融を再定義する」と語る松本大・社長CEO(写真:的野弘路、以下同じ)
ブロックチェーン普及の「触媒」になる
仮想通貨の評価についてはまだ定まったとは言えません。バブルといった見方や規制強化の可能性もある中で、買収を決めたのはなぜですか。
松本大・社長CEO(以下、松本): 仮想通貨に関して、日本は金融庁が世界でも先進的な取り組みを進めていますが、将来性があると考える人もいるし、懐疑的と捉える人もいる。まちまちです。
しかし、仮想通貨の基盤となっているブロックチェーン技術は、間違いなくいろんな形でこれからの金融取引や情報管理に使われていくでしょう。条件の異なる複雑な契約形態を自動的に一元管理できるのがブロックチェーンの強みです。金融に携わる者として、こういった取り組みを推し進めるキャタリスト(触媒)になりたいですね。
世界では、中央銀行が発行する貨幣のデジタル化、いわゆるナショナルデジタルカレンシーに向けた取り組みも始まっています。日本ではまだですが、個人的にこの動きはいずれ大きく広がると思います。
ブロックチェーン技術、そしてデジタルカレンシーといった様々な可能性に近づくという意味においても、コインチェックの買収はマネックスグループにとって意味のあるものだと考えています。仮想通貨に関する技術や知見、優秀な人材の多くは、仮想通貨交換業者に集まっていますから。
セキュリティー対応はしっかりやる
コインチェックは約580億円もの仮想通貨を流出させる事故を起こし、顧客からの訴訟も提起されています。こうしたものも含めてリスクをどうみていますか。
松本:今回の買収に関しては、リスクはないとは言い切れませんがかなり抑えられた、よくできた取引になったと思います。(買収の対価として)最初に支払う36億円にプラスして、今後の業績に応じて買収金額を追加で支払う「アーンアウト条項」を付けました。これは私からするとすごく当たり前のことなのですが、世間ではあまりなじみがなかったようですね。
リスクに関し、最も注意しなければならないことを挙げるなら、1月に世間を騒がせたような事件(システムのハッキングによってコインチェックの仮想通貨が流出した事件)を起こさないようにすることでしょう。セキュリティー対応を今後はしっかりしていかなければなりません。やらなければならないことはたくさんあると認識しています。
海外の機関投資家の中には仮想通貨を取り扱うことについて懐疑的な見方もあるようです。
松本:コインチェックの買収は、海外機関投資家を株主に多く持つマネックスグループにとってマイナスなのではとの憶測も飛んでいるようです。一部の海外機関投資家の中には、仮想通貨事業に関わる企業の株式を保有してはいけないルールがあると発言された方がいたと伝えられましたが、全くそんなことはありません。
今回の買収については、私自身が主要な海外機関投資家に直接説明をしました。彼らと頻繁に対話の機会を持っている私の方が、はるかに事情に詳しいと思っています。
仮想通貨の時価総額は50兆円、無視できない
松本:昨年10月にグループの事業会社、マネックス証券の社長に復帰し、仮想通貨やブロックチェーン事業を軸の1つにすると宣言しました。最初はそれを自分で立ち上げて行くつもりでしたが、今年3月中旬になって(コインチェックの)買収の話をいただいた。これは縁だと思っています。
マネックスはインターネット証券のパイオニアでもあります。仮想通貨ではどんな役割を果たしていくつもりですか。
松本:私は1999年にマネックス証券を創業した時から「新しい金融の形」を社会に向けて提案してきました。20年前にオンライン証券が生まれた頃、インターネットはそれほど普及しておらず、技術的な知識もあまり共有されていませんでした。私は技術的なことを勉強しつつ、規制当局や関係省庁と議論しながら、取引ルールを作った記憶があります。
仮想通貨もそうですが、エンジニアたちは技術的な知識は豊富だけれども、それをどう既存の社会に当てはめていくかなど、法整備などのルール作りに関してあまり詳しくはありません。規制当局とこうした技術者たちの間に入る「通訳」的な存在が、技術発展には必要だと思っています。仮想通貨技術が社会で活用されていくためにも、自分はこうした役割を引き受けていきたいし、役に立ちたいと思っています。
仮想通貨の時価総額は今や50兆円。これは金の時価総額の5%に相当する額です。資産としては無視できない規模にまで成長しました。この動きは見過ごせません。既存の金融市場にもインパクトを与えているのですから。コインチェックの買収は、「金融を再定義」するためになくてはならない1つのピースなのです。
(インタビューの全文は日経ビジネス4月23日号で掲載する予定です)
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