
2014年に香港で起こった民主化デモを率いた学生団体のトップが4月10日、新党「デモシスト」を結成した。学生団体「香港専上学生聯会(学聯)」で秘書長を務めた羅冠聰(ネイサン・ロー)氏が党首に就任。党の秘書長には、別の学生団体「学民思潮」を率いた黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏が就いた。
キーワードは「10年後の香港」
デモシストは公約として「民主自決」の実現と、「暴力に頼らない民主化路線」などを掲げる。民主自決は、現行の一国二制度が終焉を迎える2047年以後の香港の在り方について、10年後に住民投票を行って決めるというもの。今年9月に行われる立法会(国会に相当、議席数70)議員選挙に候補を立てて、公約の実現に動き出すという。
10年後の香港――。
香港では今、この言葉がバズワードになっている。
10年後の香港の姿を描いた映画「十年」が大ヒットを博している。5つの短編からなる自主製作映画だ。4月4日には香港のアカデミー賞と言われる「金像奨」で最優秀作品賞に選ばれた。
「十年」のある短編には、困惑する年配のタクシー運転手の姿が登場する。香港の公用語は広東語だが、劇中の香港では北京語が公用語になっているからだ。また、議員が暗殺されたり、言論の自由を奪う法律が制定されたりするなど、民主化に対する圧力が高まる未来像を描きだしている。
今回の金像奨は、中国本土のテレビで生中継が見送られた。「十年」が最優秀作品賞に選ばれたことが背景にある。NHK国際放送がニュース番組の中で「『十年』が最優秀賞を受賞した」と報じたが、中国本土では画面が黒くなり視聴することができなかった。
「十年」が描く10年後の香港はあくまで映画の中の世界である。だが、「起こりつつある現実」であると香港に暮らす多くの人々が感じていることが大ヒットした背景にあるのだろう。
事実、「十年」が描く香港で起きることと似たことが現実に起き始めている。
昨年10月、中国共産党を批判する書物を出版・販売する「銅鑼灣書店」の関係者ら5人が行方不明となり、そのうち3人について、中国当局が拘束したことを認めた。5人のうち1人は地元・香港で消息を絶ち、中国本土の当局に拘束されていた。越境した記録すら残っていなかった。
拘束された当人は「自分の意思で中国本土へ渡った」と発言しているが、香港の住人がIDカードを持たず、かつ出入国ゲートを通らずに本土へ行くことは通常は考えられない。香港で拘束されて出入国ゲートを通らずに本土へ連行された可能性が高い。
銅鑼灣書店では、中国の習近平国家主席に関するスキャンダル本を出版・発売する予定だったとされる。中国共産党を批判する書籍は香港で多く扱われている。それは、「一国二制度」の下で言論や出版の自由が保障されているからだ。香港が1997年に英国から中国へ返還された後も、50年間は高度な自治が認められている。
しかし、言論や出版の自由は現実に侵されつつある。
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