このように見ると、ホームグロウンやローンウルフの脅威は、ISが台頭し、欧米への攻撃意思を高める以前から始まっていることが分かる。「9.11」以降、アルカイダに代表されるテロの脅威が拡散している中で、ISという圧倒的な組織力とブランド力を持つアクターが誕生し、新たに“外国人戦闘員(シリア・イラクに渡航し、ISなどのグループに参加し戦闘員となる者)”、“帰還した戦闘員(シリア・イラクなどで戦闘経験を積み、帰国し母国でテロを起こそうとする者)”が現実的な脅威となって、事態の悪化に拍車を掛けることになったわけだ。

 もちろん、ISの登場は大きな出来事だった。だが、シリアとイラクを拠点に活動するISが弱体化したからといって、欧米でのこの種のテロが沈静化するとは、以上の事実から言えないのである。

状況を一気に悪化させる「極右勢力によるテロ」

 今回のブリュッセル、そして去年11月のパリでのテロを受け、欧米人、そして日本人の中でも「ISによるさらなるテロが欧州で起こるのでは」との不安が高まっている。

 筆者も不安なのは同じだが、ISのテロ以上に懸念しているのは、欧州の極右主義勢力、極右主義者によるテロだ。

 欧米がホームグロウンやローンウルフなどの脅威に悩まされていた2012年7月、ノルウェーの首都オスロにある政府庁舎が爆破され、またその近くにあるウトヤ島で銃乱射事件が発生し、77人が犠牲となるテロがあった。当時も「テロ」と聞けば自然にイスラム過激派の関与を疑う風潮はあったが、実行犯はアンネシュ・ブレイビクという白人金髪のノルウェー人だった。

 彼はなぜこのようなテロを起こしたのか。ノルウェー人テロ研究者Petter Nesserが2012年1月“CTC Sentinel”に執筆した 論 文“Individual Jihadist Operations in Europe: Patterns and Challenges”によると、ブレイビクはイスラム主義から自国を防衛するのは使命であると述べ、異文化へ寛容な政策を採り続ける政府に不快感を抱いていたとされる。またブレイビクは、イスラム・ジハーディストの一匹狼的なテロ手法は、 自らがテロを行う意味で非常に参考になった、とも述べている。

 周知のように、シリアなどから欧州へ渡る難民の問題は、今日欧州各国にとって安全保障上の問題と化しており、この難民の動きが極右勢力の活動を活発化させる危険性は十分にある。そしてISによるさらなる欧州でのテロだけでなく、この難民や各国に住む移民、また難民や移民に寛容な政策を採る政権を標的としたテロが起こることを筆者は強く危惧する。キリスト教vsイスラム教、欧州vsイスラム諸国のように、宗教上、民族上の対立のさらなる加熱に繋がりかねない危険性があるからだ。

 ISやアルカイダによるこの種のテロは、今回の難民問題、そして各国内での移民問題や社会経済的問題などをうまく利用し、煽ることで国家間、そして国内の緊張関係を高め、世界を不安定化させようとしている。彼らは今日のグローバル化の拡大と深化を巧みに利用し、問題をトランスナショナル化させている。

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