船舶過剰による受注低迷に見舞われている造船業界。収益の柱となる商船部門の採算が悪化する中、これまで国の安全保障のため、大目に見られてきた防衛省・海上自衛隊向けに護衛艦や潜水艦を建造する艦艇部門も厳しい状況に直面している。艦艇建造を手がける造船大手からは、建造基盤を維持するため政府主導による輸出を待望する声も上がる。

「情報管理などを徹底しつつ、(日本政府は艦艇の)海外輸出もぜひ考えてほしい」。ジャパンマリンユナイテッド(JMU)の三島愼次郎社長は3月下旬に開いた記者会見でこう話した。はた目には同じ船とはいえども、艦艇建造には商船と異なる専門的な技術や設備、習熟した人材が必要となる。それらを維持するには、継続的に一定の仕事量が必要で、海外輸出もその一助になるとの認識を示した。
従来、艦艇部門は顧客が防衛省に限られ、防衛予算や整備計画などによって発注水準は大きく左右される。また過去に比べ、装備の高度化などで艦艇は大型化しつつあり、その分、建造隻数は減少する傾向にある。入札の過程などで収益率も厳格に管理され、大きな利益を上げることは難しい。造船メーカーにとっては不安定な事業だが、国の安全保障の根幹を支えるだけに、聖域として守ってきた面もある。
艦艇はJMU、三菱重工業、三井造船の3社が護衛艦などの水上艦、潜水艦は三菱重工と川崎重工業が手掛ける。
商船が立ち行かないと艦艇の基盤も揺らぐ

とりわけJMUは近年、艦艇建造に注力してきた。ミサイル防衛の中核を担うイージス艦を立て続けに受注したほか、記者会見の数日前には海自最大級の空母タイプの護衛艦「かが」を磯子工場(横浜市)で海自に引き渡したばかりだ。そのJMUにしても、中長期的な建造基盤の維持への危機感は強い。
艦艇事業の不安定さとともに、造船各社を苦しめるのが商船部門の不振。JMUでは2016年度の受注は前年度の3分の1の12隻、金額はほぼ半分の2000億円にとどまった模様だ。商船で稼ぐことができれば、一定の規模を背景に艦艇の建造も不安なく続けられるが、その前提が揺らぎつつある。ライバルの三菱重工は商船部門の実質的な縮小に動く。
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