4月6、7日の米中首脳会談では、開催前からトランプ米大統領は貿易赤字問題や北朝鮮問題などを通じて、習近平主席に対して様々な「大芝居」を打ってきた。だが、習主席は大きな土産を持参することはなかった。その背景を、丸紅中国・経済調査チーム総監の鈴木貴元氏が解説する。

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トランプ政権は、習近平主席に対して様々な「大芝居」を打ってきたが、習主席は動じなかった (写真:AP/アフロ)
トランプ政権は、習近平主席に対して様々な「大芝居」を打ってきたが、習主席は動じなかった (写真:AP/アフロ)

 米国東部時間4月6日午後8時半頃、フロリダのパーム・スプリングス「マール・ア・ラーゴ」でトランプ大統領主催のディナーが終わったとき、トランプ大統領は中国の習近平主席に、米国のトマホーク第一弾がシリアに着弾したことを告げた。

 発射命令がエアフォース・ワンで下されたのは、着弾から遡ること4時間半前の午後4時。機中、記者団には、米中首脳会談では北朝鮮情勢と巨額の対中貿易赤字への対応を迫ると述べていたが、その時、実はトランプ大統領はサプライズを抱えていたのだ。

 そして、1時間後の午後5時、トランプ大統領は笑顔と握手で、そして娘イバンカ氏の娘・息子による中国の民謡「茉莉花」の歌唱と「三字经(唐詩)」の朗読で習主席夫妻を迎えた。ディナー中に、「中国から全く何も得ていない」と不満を述べつつも、習主席とは「意気投合し、良好な友好関係を築いた」と語っていた。

習近平主席には「お土産」を持参するメリットなかった

 このような経過を経て、シリア攻撃の話を繰り出したわけであるから、トランプ大統領はかなりの芝居を打っていたように思える。4月2日のフィナンシャル・タイムズのインタビューで「中国が解決しなければ、我々がする」と、北朝鮮情勢について中国に圧力をかけていたこともあり、習近平主席としては、米国の武力行使への本気度とともに、ある種の戸惑いや不信感を感じたかもしれない。

 一方、トランプ政権は上層部もスタッフもまだ指名が終わっておらず、外交・通商政策の方針が依然として固まっていない、また、関税政策や為替操作国などの対中対抗策をはじめ、トランプ大統領が選挙時に掲げていた保護主義的・孤立主義的な政策は実現する可能性が低下しているため、習近平主席はそもそも大きなお土産を持ってくる必要も、中国の従来のスタンスを変更して米国にすり寄る態度をみせる必要もないと考えられていた。

 米中関係に関する中国内の論調は、以下のようなものだった。

(1)米国と中国の経済は補完関係にあり、対立は互い利益がない。米国の輸出において、大豆の56%、ボーイング機の26%、自動車の16%、半導体の15%が中国向けであり、北米自由貿易協定(NAFTA)以外の地域で最も拡大が速い国である。直接投資においても、両国で年間170億ドルもの投資が実施されている。よって、協力こそが米中関係の在り方である

(2)中国は、自由貿易体制を支持しており、米国こそが現在の体制を否定している。中国は改革開放路線を変えていない(米国からはサービス部門の開放と、知的財産侵害・サイバーセキュリティー問題の改善が求められているが)

(3)中国は一帯一路や二国間・多国間の自由貿易協定FTAを進めており、トランプ大統領に対する世界的な懸念に対して、中国は現在の自由貿易体制を支えている(実際、3月には環太平洋経済連携協定(TPP)参加国のオーストラリアやニュージーランドを李克強総理が訪問。ノーベル賞の問題で2014年以来、関係が悪化していたノルウェーとも関係を正常化している)

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