福島県楢葉町で量販EVの電池部材の生産も
世界屈指の起業家が集うシリコンバレーと、原発事故の放射線汚染で全町避難が解除されたばかりの福島県楢葉町。この対照的な二つの点を結びつけたのはEVだ。
テスラはEV「モデルS」と「モデルX」の販売台数を伸ばしており、パナソニックに電池の増産を要請。パナソニックに正極材を供給する住友鉱山は、その要請に応える形で楢葉工場を立ち上げた。
実は住友金属鉱山の電池部材工場は既に建物だけが出来上がっていた。震災のわずか2日前の3月9日に日本化学産業が完成させていた。原発事故で稼働ができなくなり、休眠状態の工場を住友鉱山が活用した。
もともと建物があったため、住友鉱山の角谷博樹執行役員は「ゼロから工場を作るより、立ち上げを1年ほど短縮できた」と語る。

テスラのモデル3は住友鉱山の楢葉工場にどのような影響を及ぼすのか。
モデル3の価格は3万5000ドル(385万円)からと、1000万円近いモデルSに比べて大幅に安い。これまではEVの年間生産台数が5万台程度だったのに対して、モデル3は年間50万台生産する予定だ。
増産とコストダウンの鍵はリチウムイオン電池が握っており、パナソニックは既にテスラが米ネバダ州に建設する巨大電池工場への進出を決めている。
住友鉱山はまだ意思決定していないが、楢葉工場にはスペースが余っており、追加投資する余地がある。しかもモデル3は販売台数が従来に比べて桁違いに多いため、増産で楢葉工場はさらに活気づく可能性がある。
テスラのマスクCEO自身にも福島との縁がある。
同CEOは震災後の2011年7月にマスクCEOは福島県相馬市を訪れた。太陽電池を相馬市に寄贈するためだ。マスクCEOは相馬市の立谷秀清市長に太陽電池を手渡し、「今回の原発事故はソーラーパワーの重要性を全世界に知らしめた」と語っている。
余談になるが、テスラから福島につながる線はフィリピンまでつながっている。住友鉱山がフィリピン南西部のパラワン島でニッケルの原料を生産しているからだ。

もしニッケルの調達に支障があれば、テスラはEVを生産できない恐れがある。そのため住友鉱山がニッケルの原料を外部から買い付けるのではなく、自ら生産している点もテスラが評価している点だ。
筆者は2008年に同地を訪れた。フィリピンの首都マニアから西部のパラワン州都まで飛行機で1時間。そこから軽飛行機に乗り換え、1時間ほどすると、濃い緑色のジャングルが途切れ、赤褐色の地表が眼下に広がってくる。
一見すると単なる泥のようだが、住友鉱山は独自の精錬技術によって、これをニッケルの中間製品に生まれ変わらせている。
これを日本に輸出し、愛媛県の新居浜工場でニッケル製品に仕上げ、リチウムイオン電池の正極材の原料にするのだ。
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