イノベーションを作るのではなくイノベーターを作る

キックボックスに入っているクレジットカード。1000ドルまでは社員が自由に使っていいが、「ほとんどのケースですべて使い切らずに戻ってくるケースが多いですね」とランドール氏は言う。

 キックボックスは、アドビに何をもたらしましたか。

ランドール氏:キックボックスはイノベーションを作るのではなく、イノベーターを作るためのものです。

 失敗を回避するのではなく、失敗に慣れること、新しいことを実践すること、リスクテイクすること、そこから学ぶこと、こういったことが習慣になれば、今までトライしなかったことにもトライするようになる。そのようなイノベーターが社内にたくさん生まれることが重要でした。コストや時間をあまりかけずに、失敗からたくさんのことを学んでステップアップしてほしいというメッセージでもありました。これは会社にとって大きなカルチャーシフトです。

 社員ひとり一人が、より消費者にフォーカスし、よりデータにフォーカスすることも学べます。そういった意味で「カルチュアル・レボリューション・システム(企業内の文化改革システム)」と言えるかもしれません。

 大切なのは、どう失敗するのか。そして、そこから何を学ぶのか、です。早い段階で失敗することは良いことです。それによって後の大きな失敗を回避できますし、すべての小さな失敗に小さなブレイクスルーがあるはずなのです。だから、小さな失敗はどんどんしてほしい。

 クリエイティブ(創造性があること)の反対は、ボールド(退屈)という人もいるが、僕は、「フィア(恐れること)」だと思っている。失敗することを恐れれば、クリエイティブなアイデアは生まれない。そういう意味で、「恐れ」はクリエイティブの最大の敵です。

 新規開発の失敗率が低いのだとすると、果敢なことを試していないことの証左だと思っています。キックボックスは、失敗率を高くすることがゴールでもありました。コストと時間をかけたあげく、危機的な失敗をするのではなく、より早く小さな失敗をたくさんすること。

 「失敗は学習だ」という新しい概念を、アドビに植え付けられていると思っています。

《日経ビジネス2016年3月28号では、アドビシステムの企業戦略を詳報しています》