お金を委ねられることで人は成長する

新規開発プロジェクトのキックボックスは、案件創出のみならず、「失敗を恐れない」企業文化を根付かせる狙いがある

ランドール氏:大きく3つあります。

 まず、ありがちな「経営陣に真っ先にプレゼンする」をなくしたことです。最初に必要なのは、経営陣へのプレゼンではなく、本当の利用者からの声やデータです。経営陣へのプレゼンの前に、最初に市場に聞く。これによって、経営陣にアイデアが届くときはすでにその成功率がある程度数字として読めるようになり、経営陣はそのアイデアに対して“なんとなく”NGを出すこともできなくなります。

 会社にとっても、市場に受け入れられなかったアイデアは淘汰され、会社が判断していたら見落とされていたような斬新なアイデアに巡り会う可能性が高まります。

 もう1つは、アイデアがあれば、それを自分の責任で追求できるようにしたことです。ある社員が思い付いたアイデアを、会社にいながら、誰かに悪いアイデアだと決めつけられたり、会社に監督されたりすることもなく、追求できる。

 3つ目は、どのようにお金を使うかを従業員に学ばせる機会にもなることです。お金を与えることは、社員の意見に価値があるということを伝えることにもなり、信頼感が生まれます。これは「君たちは会社にとって重要だ」「イノベーションを期待している」ということを言葉で何十回伝えるより効果がある。お金を与えて任せることが大事なのです。

 さらに、お金を委ねられることで、自分がそのアイデアの最終決定者となり、責任感も生まれ、アイデアの選び方も変わってきます。ただ面白いのではなく、コストを踏まえてビジネスとしてどうなのか、という観点でアイデアを見据えるようになるのです。ちなみに、渡した1000ドルは、ほとんどのケースですべて使い切らずに戻ってくるケースが多いですね。

 2015年の米フォトリアの買収など、キックボックスがアドビ本体の経営戦略に影響を与えた例もあるようですね。

ランドール氏:当時、アドビ自体がフォトストックのようなコンテンツを扱うサービスのアイデアを模索していました。一方、キックボックスではコンテンツとメタデータをインデックスするというテストをしていました。どんな索引を使えば、適切なコンテンツを探せるのか、といったようなことです。