トランプ米大統領は4月6日、シリアの空軍基地に59発の巡航ミサイル「トマホーク」を発射した。トランプ政権は、シリアのアサド政権がサリンなどの化学兵器を使用したと断定し、それに対する対抗処置をとった。今回のシリア攻撃の影響を、住商グローバルリサーチの高井裕之社長が分析する(「トランプウオッチ」でトランプ政権関連の情報を随時更新中)

今回のトランプ政権の行動は選挙期間中から就任後の対シリア政策を根底から覆すものとみている。
大統領の決断のきっかけは、シリア政府軍のものとみられる戦闘機による化学兵器攻撃だ。100人を超す幼い子供を含む人的被害の悲惨な状況を見て、大統領の心は大きく動いたと考えられる。2013年に同様の事態が起きた際にオバマ大統領が「レッドラインを超えたならば行動する」という前言にも関わらず何もしなかったことに対して、自分は前任者とは違い「有言実行のリーダー」であることを示したかったと思われる。
今回の軍事行動が米中首脳会談の最中に実施されたことは、北朝鮮、そして中国に対する暗黙の強烈なメッセージでもあると考えられる。今週も北朝鮮が挑発的なミサイル発射を実施している。金正男氏殺害事件や、在日米軍基地を狙ったとも言われている前回のミサイル発射事件もあり、北朝鮮への対応は風雲急を告げていた。
今回の米中首脳会談でも、経済問題よりも優先して北朝鮮問題が両首脳の間で議論されることになっており、トランプ大統領としては会談において習近平国家主席に厳しい対応を迫ることになるのではないか。
シリア空爆を受けて原油相場は続伸
このニュースを受けて、アジア時間帯で原油相場が続伸している。シリアは石油市場に影響を与えるほどの産油国ではないものの、同地域にはイラクなど戦闘が続く産油国もあり、ホルムズ海峡などチョークポイントも存在することから、広い意味での中東情勢の緊迫化による「有事の原油買い」が入っていると考えられる。
3月半ばから投機筋による空売りが積み上がっており、原油相場は買われやすい地合いにあったことも背景にある。産油国による減産合意が6月まで継続することからも、しばらくは買い手優位な相場推移を予想する。
今回の事態の急展開によりトランプ政権による中東問題の優先度が、対イスラム国(IS)からシリア内政問題に急速にシフトしたと考えられる。国家安全保障会議NSC)からバノン首席戦略官兼上級顧問が外れたことも、政権内部でマティス国防長官やマクマスター国家安全保障問題担当大統領補佐官など、軍出身者の伝統主義者と呼ばれる人々にパワーバランスがシフトしてきていることも注目すべきであろう。
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