「資本と経営の分離」とは伊藤家からの信任


 鈴木会長の説明において、「資本と経営の分離」という文脈で語られる「資本」とは、創業家である伊藤家のことだろう。井阪社長が翻意して「辞めない」と意見を変えたことや、鈴木会長が自ら身を引く決断を下したことの背景には、創業家であり、大株主である伊藤家の存在があったと見られる。鈴木会長や村田社長らは、長々と説明を重ねてきたが、最終的になぜ引退を決めたのか、伊藤家との関係で何が変わったのかについて、明確に話されることはなかった。明確な「解」を求める質問に、鈴木会長はこう続けた。

鈴木会長:くどくなりますが、私は資本と経営の分離を言ってきました。今、伊藤家の資本そのものは全体の約10%で、そのこと自体は経営に大きく影響するようなものではありません。

 けれども私は小売業、なかんずくフランチャイズビジネスについて考えると、そのあたりをきちっとしておかないといけないと思っています。その見本を作ることが大きな使命だと思っていますし、何もそれはセブンイレブンだけの問題ではなく、日本のコンビニを(かつて)総反対された中で作ってきたという私の使命からしても、資本と経営の分離をきちっとすることが、重要だという思いがあったからです。


 井阪社長が続投にこだわった背景には、伊藤家や、セブン&アイの株式を取得した物言う株主サード・ポイントの後ろ盾があったからだろうか。鈴木会長は意味深な答え方をした。

鈴木会長:(伊藤家が反対したという)そういうこともあるし、このままいけばこの後、大株主でもない人が入ってきて、経営に口を挟まれるようになると十分推測されます。


 伊藤名誉会長には信頼されていたと語った鈴木会長。それならばなぜ、今になって伊藤家にはしごを外されたのか。

鈴木会長:これは非常に言いにくいことでして、ちょっとご勘弁いただきたい。要するに世代代わりがあったということです。これは私よりも後藤、佐藤の方がよく承知していることだと思います。

「伊藤名誉会長の心変わり」が結果的に引導に


 鈴木会長の言葉を受け、後藤顧問は立ち上がって力説し始める。

後藤顧問: これだけ明快な記者会見ですが、もっと明快にしないといけないと思います。名誉会長の心変わりには非常に困惑しています。そういう中で村田社長が(井阪社長退任を承認する)判子をもらえなかったわけです。

 遡ってみると、「なるほど」ということがありました。今日現在、私と(伊藤名誉会長が)会うスケジュールは4回、佐藤顧問とのスケジュールは3回キャンセルになっています。これは当然のことながら、何かあると思っています。

 伊藤家が翻意したことが、鈴木会長退任の原因であるということが繰り返し説明された。だがそもそも、こうした顧問らを間に挟まず、伊藤名誉会長と鈴木会長が直接話し合えばよかったのではないか。またこれまでの説明は伊藤名誉会長にとっても、井阪社長にとっても、ある種の“欠席裁判”とも言える。まっとうな企業としての普通の解決方法があるのではないかという問いに、鈴木会長はこう答えた。

鈴木会長:(伊藤名誉会長とは)これまで良好な関係にありました。けれどここに来て、急きょ変わりました。今まで私が提案したことを(伊藤名誉会長が)拒否したことは1回もなく、ずっと了承してきていました。しかし世代が変わったのです。抽象的な言い方ですが、それで判断してもらいたい。

 伊藤家の「世代が変わった」という言葉が繰り返された。だがそもそも、セブンイレブン経営陣の刷新について、伊藤名誉会長の「判子がもらえなかった」とはどういうことなのだろうか。伊藤名誉会長が経営を鈴木会長に任せてきたのであれば、わざわざ判子をもらう必要はない。この疑問には村田社長が答えた。

村田社長:指名・報酬委員会に提出する人事案は本来、伊藤名誉会長の承諾を得るものではありません。けれど指名・報酬委員会の中で、創業家であり約10%の株を持つ伊藤名誉会長の意見も重要な1つの判断材料になるので、捉われることはないけれど、伊藤名誉会長が、鈴木会長に絶大な信頼を持っているならば、印鑑をいただきに行って参りましょう、となりました。口で言うのは簡単だけれど、判子をいただければ(社外取締役も)納得するだろう、と。ところが「押せない」と言われたのです。先ほども申し上げたような、「え」という私自身の心の中にわだかまりの出る言葉でした。

 指名・報酬委員会でも井阪社長の退任についての結論は出ず、その後の取締役会でも、社内の役員からも賛同が得られなかった。こうした事実について、「説明責任が欠けていたのではないか」と鈴木会長が問われた。

鈴木会長:指名・報酬委員会では5時間をかけてディスカッションを重ねました。ですから、説明する時間がなかったということはないと考えています。

 では指名・報酬委員会で5時間もかけて議論をして、その結果、疑問視された内容の人事案を、なぜ鈴木会長は改めて取締役会にはかったのだろうか。

鈴木会長:指名・報酬委員会は(井阪社長の退任に対して反対したのは)「7年間最高益を続けた社長を辞めさせるのは世間の常識が許さない」という1点でした。(編集部注:正確には、セブンイレブンは2016年2月期まで5期連続で最高益を更新)

村田社長:指名・報酬委員会の5時間の議論の中で、鈴木会長の経営に対する姿勢や方針、実行やそれによる業績については、社外取締役の2人にも理解してもらいました。ただ、それはそれとして、外の目から見ると、7年間成長を続けてきた井阪氏を変える要因を見つけることはできない、「従って結論に達し得なかった」となり、取締役会で十分に説明したうえで、決議を取ってもらいたいという結論になりました。指名・報酬委員会では、企業統治(コーポレート・ガバナンス)の問題についても、非常に十分な、ざっくばらんな話し合いが行われました。

 引退の意思を表明した鈴木会長は、いつ経営の現場から去るのだろうか。

鈴木会長:今日決めたことですから、明日も私が出るはずのアナリスト説明会があります。けれど私は辞めるのに、「この先の1年間、どう持って行きます」ということは言えません。ですから明日(のアナリスト説明会)は出ません。出ない理由が何なのかということになりますので、今日皆さんに辞めることを説明すべきだと思いました。

 「後継者を育てられなかったのではないか」。この問いに鈴木会長は笑みを浮かべて、こう答えた。

鈴木会長:私の不徳といたすところです。

記者会見場を後にする鈴木会長
記者会見場を後にする鈴木会長