詰めの段階で伊藤名誉会長が翻意?

佐藤顧問:私も伊藤名誉会長とは、50年以上、仕事の指示を受けたり、色々なことをやってきたりしていました。店舗開発やカネの問題、訴訟もそうだし、そういったものを含めてかなり深い関係がありましたから、伊藤家の皆さんや名誉会長の心情の変化、普段のスタンスも分かるつもりでおりました。

 (伊藤名誉会長は)色々な話を聞くのが好きですし、幅広い解釈をできる人ですから、今回の人事の話も心配ないだろうと思っていました。ご本人も昨年腰の骨を折ってリハビリをしていて、会社に来るのも午前中の時間を過ぎた頃にゆったりと来ておりました。

 今回の案を説明しても、「そうぶれることはないだろう」とぎりぎりまで思っておりました。(伊藤名誉会長は)「経営は基本的に全て鈴木に任せてある。たまたま心配事があったら報告してよ」という感じで、幅広い解釈をしてくれていると思っていました。

 けれど、どうも詰めの段階に来て、(伊藤名誉会長)本人が言ったかどうかは確認していないけれど、噂が入ってくるようになり、それがどうも本当らしいとなってきました。(顧問の)後藤さんから話があったように、これは大変なことになるという印象を受けていました。

 周りの人がいろんな角度でサポートして、経営陣も自分たちが何をすべきかよく理解しているものですから、業績に影響が出るようなことはなかったのです。セブンイレブンはフランチャイズビジネスで、これまでは加盟店のオーナーがしっかりとやってくれていました。しかし、今のまま井阪体制を続けることになれば、これをうまく続けていけるのかという心配をせざるを得なくなります。鈴木会長が実績を作ってきていますから、今は数字がたまたま良くても、この先はちょっとのほころびがあっても大変なことになるのではないかという心配が出てきたわけです。

 この心配は昨日今日で出てきた話ではなく、この数年来で出てきた印象があり、(今回の人事案は)その対策だったわけです。(退任を井阪社長)本人に告げて、本人も快く承知をしたのに、時間が経つにつれて「やはり俺がやってきたんだ」「俺の時代なんだ」ということがあったんだろうと捉えています。推測ですから分かりませんが、こういう感じで結局、問題を世間に問わないといけなくなりました。

 佐藤顧問の言葉を受けて、鈴木会長が再びマイクを持った。

「逃げではなく、引退を決意した」

鈴木会長:何を長々と話しているのかと思われるかもしれませんが、私は最高益を続けてきました。セブンイレブンの幹部からは、「あなたはCEOをやりながら、COOの仕事も半分続けてきましたね」とずっと言われてきました。

 私は1つの会社だからいいじゃないか、と言ってきたけれども、私がCOOをいつまでも兼務することはあってはなりません。人を育てていかなくちゃならないと常々思っています。ここのところ最高益を続けていますし、またこの3月からの新年度の予算でも、最高益を出せる状態にあります。だから私は逃げではなく、そういう時こそみんなに考えてもらいたいというつもりで引退を決意しました。

 今日も昼から会社の中で、私に対するものすごい声がありました。「なぜ引くんだ」と幹部にもすごく言われました。「最高益を出して、みんなが頑張ればいい」と言いましたが、みんな引きませんでした。

 利益が悪くなって退くのは逃げだと思うけれど、そうじゃない。2~3年かかっても、今のところみんなでやってくれるんじゃないかという希望的な観測を持って、今回急きょ、なぜ引退を決意したのかを説明しました。いずれも、私の不徳といたすところで、こんな説明をしなくてはならないのは、誠に慚愧に堪えないのだけれど、その辺のところを理解してもらいたいと思います。以上でございます。

 退任を決意するまでの流れについて鈴木会長は一気にまとめたが、今なおはっきりしない問題は数々、残っている。これまでの説明で最も時間を割かれたのは、井阪社長に対する不満や、鈴木会長が退任を迫って以降の井阪社長の対応について。なぜ鈴木会長が辞めるに至ったのか、伊藤名誉会長との間に何があったのかは、明確に語られることはなかった。このまま会見は質疑応答に進む。

 引退を決意した時期や、この日の午前中に開催された取締役会の様子はどうだったのか。

役員会の後で急遽、引退を決意

鈴木会長:役員会の席でも、井阪社長は発言をしました。けれども(内容は)、いかに一人で経営してきたかということで、ものすごくがっかりしました。ほかの役員も「よくそんなことが言えたもんだ」と言っていたのが実態です。

 そうなるとやはり、今の井阪くんを信任して、私がそこでやっていくことは、かえって将来に禍根を残すと思ったので、私は役員会が終わった後、急きょ、村田くんにも集まってもらって、「今日引くよ。そのために記者会見するよ」と言いました。

 みんなびっくりして引き留めてくれましたが、おかげさまで最高益を続けてきています。新年度も最高益を出せるだろうと思います。お荷物だと言われているイトーヨーカ堂も、何とか見通しが立つ状態に向きつつあるということで、決して私は逃げ出すわけではないということを、自分で自分に納得できたのが今日でした。

 質問は続いて、鈴木会長が、息子の鈴木康弘・セブン&アイCIO(最高情報責任者)に経営トップの座を世襲させたがっているのではないか、という点にも及んだ。鈴木会長は笑いながらこう続ける。

息子への“世襲”を否定する鈴木会長

鈴木会長:何で息子の話が出てくるのか分かりません。(息子に世襲させたがっているという噂が)社内でも飛び交っていると聞きまして、ビックリ仰天なんですよ。そんなことを言ったことはありませんし、息子もそんなことを考えたことはないと言っていますし、ましてや(息子は)セブンイレブンに直接タッチしたことがありません。(息子は)技術屋ですから、そんなことは考えていません。それなのに、(息子が世襲するという噂が)まことしやかに社内で言われているのは、いかに私の不徳の致すことかと思っています。

 井阪社長の退任をはかった取締役会に参加したのは15人。そのうち反対が6票、賛成が7票、白票が2票だったと村田社長が説明した。賛成が過半数(8票)に達しなかったことで、鈴木会長が描いた人事案は否決された。これについても鈴木会長はこう言葉を続ける。

鈴木会長:私としては、反対票が社内の役員から出るようならば、私が信任されていないということだと深く考えておりましたから、(賛成、反対の)票数は問題にしておりません。

 鈴木会長が退いた後の経営体制はどのようになるのか。

鈴木会長:(今後の経営体制は)これからみんなが相談する問題で、私が後任を指名することは考えていません。

 今日の取締役会では、セブンイレブンの経営体制について、(現副社長の)古屋くんをCOOにしようという案が否決されたので、セブンイレブンは新しい案を出さないといけない。これは井阪くんが信任されたということではありません。

 ただ、私自身も今日辞任を発表しましたから、明日から会社に出てこないというような無責任なことはできないと考えております。1万8000店の加盟店のオーナーさんもいらっしゃるし、「なぜ、お前が辞めるんだ」という電話が、ほんのわずかな時間に相当入ってきていて、それにもお答えしなくちゃいけない。ですから、(退任は)今日、明日、明後日とか、4月一杯とかというようなことではなく、ただ私は新体制に入るつもりはないということです。

 今回の退任には、鈴木会長自ら提案した人事案が否決された責任を取る意味があるのだろうか。この問いに鈴木会長は「それもある」と認めて、こう続けた。

鈴木会長:私は会社入って15年間人事を担当してきましたが、人事に対して否定されたことは全くありませんし、ましてや資本と経営の分離は私自身が強く言ってきました。自分で言ってきたことの責任を果たすと、自分に言い聞かせています。

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