”本丸”通商法301条をめぐる米中の駆け引きが始まった

 米国政府が中国の知的財産権侵害に対して、4月3日に公表した通商法301条に基づく制裁リストの対象は1300品目、総額500億ドルに上る。しかも対象としたのは、通信機器や半導体など中国の戦略産業である先端分野の製品だ。

 中国政府は「中国製造2025」で戦略的に重要な先端産業を選んで、世界の中で支配的地位を占めることを国家主導で目指している。こうしたターゲティング・ポリシー自体への警戒感が欧米中心にある中で、米国はそこに狙いを定めて制裁対象とする品目を選定している。中国の国家主導の産業政策をけん制する、政治的な意味が込められている。

 ただし、米国の制裁はバリューチェーンの中間部品に関税をかけることになり、これらを購入しているIT分野をはじめとする米国企業への影響が大きいことは否めない。自分の首を絞めることにもなりかねないのだ。狙いはいいが、手段が間違っていると言わざるを得ない。

 中国が4月4日に公表したのは、この通商法301条に対する報復である。総額を500億ドル規模としたのも米国の制裁と対等にするためで、これにより一歩も引かない姿勢を打ち出している。

 この本丸への対抗カードの切り札が、大豆と自動車、航空機だ。米国が輸出する大豆の6割は中国向けだ。中国は米国に代わってブラジルから代替輸入することも可能だ。中国が輸入制限するとシカゴの大豆相場は暴落することが予想される。しかも大豆の生産地の中心はトランプ氏の政治基盤である米国中西部で、米国農家にとっては大打撃だ。ただし、中国にとっても輸入大豆は家畜用の飼料として使われるため、輸入価格が上昇することは豚肉価格に直結することから、できれば避けたいところだろう。

 航空機も米ボーイングの売り上げの4分の1は中国で、昨年11月にトランプ大統領が訪中した時のお土産商談の目玉の一つにもなっている。中国にとってボーイングから欧州のアバスに切り替えることはたやすいことだ。自動車も国産車、日欧からの輸入車での代替は可能だ。

 こうした切り札を牽制球として素早く公表して、今後の米国との交渉ポジションを有利に展開しようする中国の目論見は明白だ。

 これらの本丸での報復関税も、単に交渉のための牽制球としての「見せ玉」であるが、仮に実施されれば、鉄・アルミの輸入制限に対する報復関税と同様に、WTO違反だろう。中国は同時に米国に対してWTO提訴すると表明している。それならば、WTOのルールに従って解決策を探るべきだろう。別途、中国の国内法に基づいて報復関税を一方的に課すのはWTO違反である。

WTOを無視できる中国とは同列に語れない日本

 80年代の日米貿易摩擦でも米国は通商法301条、スーパー301条という一方的措置を振りかざした。その脅しを背景に、日本は対米鉄鋼自主規制、半導体協定、自動車協定で譲歩を余儀なくされた苦い歴史がある。そうした経験から、歯止めをかけるために一方的措置の禁止などが盛り込まれたのが、95年のWTO発足の成果であった。それが今、WTOを無視する形で、一方的措置の応酬になっている。

 中国は巨大な国内市場を抱えていることから、国内市場が交渉パワーになる。80年代の日本と違って、米国の一方的制裁という脅しに対しては同じく一方的報復という対抗策を講じることができるのだ。

 しかも中国は市場経済ではなく、国家資本主義であることから、党が経済活動をコントロール・介入することに何ら抵抗感がないどころか、なじみやすい体制だ。対中貿易赤字の削減目標など、まさに市場経済を歪めるような取引もやろうと思えばできるだろう。

 そういう中国と同列には語れないのが日本だ。日本としてはWTO体制を何とか維持するために、粛々と米国に対してWTOに提訴するという道を選ぶべきだろう。韓国のように鉄鋼の輸入規制の対象国から除外してもらうために、慌てて取引に応じて自由貿易協定(FTA)で譲歩するといった代償を払うべきではない。

 中長期的には、短期的な取引をすることによる代償の方が大きいのだ。

■訂正履歴
本文中1ページで「孫氏の兵法」としていましたが、「孫子の兵法」の誤りです。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2018/4/5 14:00]

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