長らくローソンが牙城としてきた大阪のコンビニエンスストア店舗数で、ファミマがトップに立った。競合他社の買収効果もあるが、加盟店オーナーに複数の店を出すように説得する作戦が実った。だが全国最大手セブンイレブンもJR西日本との連携で猛追中。競争は熾烈を極める。
大阪・心斎橋はファミマだらけ
●コンビニ大手3社の主な出店状況
この数年で複数店経営に乗り出したオーナーの芝田氏(右)。上の地図で黄色に塗られた3店舗を経営している
大阪きっての繁華街、心斎橋。アパレルや高級時計の旗艦店が立ち並ぶ街を歩いていると、頻繁に出くわすのがファミリーマートだ。あの角を曲がってもこの角を曲がってもファミマ、ファミマ、ファミマ。心斎橋駅から徒歩数分という範囲だけでも、10を超えるファミマ店舗が「群生」している。
心斎橋が極端な例というわけではない。ファミマの大阪府内の店舗数は2017年2月末時点で1186店と、全国最大手のセブン-イレブン・ジャパンを上回る。16年9月の経営統合により、今後は「サークルK」と「サンクス」約300店もファミマに切り替わる。「コンビニといえばファミマ。大阪のお客さんにそう思ってもらえている」。17年2月まで主に大阪市内の出店戦略を担当したファミマの野崎勝久シニアオフィサーは誇らしげだ。今後は市中心部だけでなく、郊外でも出店を加速させる。
ローソンは1975年に1号店
大阪はもともとローソンの牙城だった。ローソンは1970年代、大阪を地盤とした小売りの巨人、ダイエーの小型店事業として誕生。1号店は75年に開業した桜塚店(大阪府豊中市)で、ファミマの大阪初出店より7年早い。いまから10年前に当たる2007年2月末時点で、ローソンの府内店舗数は835店と、ファミマを200も上回っていた。
だから大阪では元来「コンビニといえばローソン」。新規出店のカギを握る土地所有者や加盟店オーナーの候補者もそんな認識だった。1987年に入社したファミマの野崎氏は、関西で出店を担当した若手時代について「自己紹介するにも、まずは『ローソンみたいなお店をやっている会社の者です』と切り出していた」と振り返る。
コンビニ各社が加盟店舗数を競うのは、「規模の経済」を生かせば商品やサービスの質を高めやすいからだ。たとえば商品の開発では、売り先となる店舗が多いほうが食品や日用品メーカーとの交渉を優位に進められる。
全国の店舗数も重要だが、小売業の場合、ある地域でどれだけ高いシェアを持っているかがモノを言う。商品を配送するトラックが、短い走行距離でより多くの店舗を回ったほうが効率が良いからだ。このため、コンビニ各社は出店を進める際、特定の重点地域を決めて集中的に展開する「ドミナント戦略」をとるのが定石だ。
ファミマが大阪で出店攻勢をかける契機となったのが、2009年のエーエム・ピーエム(am/pm)・ジャパン買収。11年には関西における運営会社のエーエム・ピーエム・関西も吸収合併する。これで「ファミマが大阪を攻め始めた」との見方が不動産関連業界に広がった。出店に適した立地など、ファミマ本部に寄せられる情報が格段に増えた。
もちろん土地が見つかっても経営を担うオーナーがいなければ新規店舗は開けない。そこでファミマは、既存の加盟店オーナーに複数店舗を経営してもらうことにした。「経営リスクを分散できる」「パート店員の採用や勤務体系を効率化できる」。オーナーらを集めて定期的に開く会議では必ず複数店経営の利点を説明。複数店を運営するオーナーには販売奨励金を支払う制度も設け、単一店舗のオーナーには2店舗目、2店舗オーナーには3店舗目の開業を口説いた。
大阪・心斎橋で3店舗を経営する芝田良輔氏は、この数年で複数店経営に転じた一人だ。もともとam/pmブランドで西心斎橋清水町店を経営していたが、ブランド統合により11年、ファミマに転換。その後14年2月に西心斎橋一丁目店、15年2月には御堂筋清水町西店もオープンした。
この3店は現在、歩いて1分もかからない距離に立地する。2、3店舗目の開業で1店舗目の売り上げは下がったが、3店合計では増収という。出店競争が激しくなるなか、芝田氏は「セブンイレブンやローソンが近くに開店するよりは、自分がもう1店経営したほうがいい」。いつ次の店舗を開くことになってもいいよう「すでに店長候補を育成してある。来月からやってくれと言われても対応できる」という。
「ローソン発祥の地」で、競合2社が出店攻勢
●コンビニ大手3社の大阪府内の店舗数
注:16年11月以降のファミマは「サークルK」「サンクス」を含む。破線はファミマ単体
セブンイレブンも関西で猛追
牙城を崩されたローソンも、この10年、新規出店が無かったわけではない。ただ「いち早く開業していたため(店舗立地など)ハードの条件が悪くなっていた店舗も多く、移転など既存店の底上げを優先していた」(同社)。14年春にファミマにトップの座を奪われた約2年後には、セブンイレブンにも店舗数で追い抜かれることになった。
そのセブンイレブンは、いま関西で最も勢いがあるコンビニだ。14年春に西日本旅客鉄道(JR西日本)と提携し、近畿の駅構内にある約500店の売店をセブンイレブンへ切り替えている。同時期に始めた「西日本プロジェクト」では店舗と商品チームが連携、関西の食文化に合わせた食品を投入している。
大阪に限らず、全国で激しい出店競争が繰り広げられているコンビニ業界。お客にとっては自宅やオフィスの近くに店舗が増えたほうが便利だが、過当競争で、競合店が多くなり加盟店オーナーの経営が厳しさを増しているとの指摘もある。今後はコンビニ本部と加盟店がともに持続成長するための工夫も一層求められそうだ。
(日経ビジネス2017年4月3日号より転載)
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