Xでは、B1とS3、B2とS2、B3とS1に取引をさせる。ペア毎に取引価格は異なり、それぞれ買い手の価値と売り手の費用の平均値で売買が行われるとしよう。たとえば、B1-S3ペアでは、B1の価値1000円とS3の費用700円の平均である850円で財が売買される、といった具合だ。このような(個別)価格で取引が行われたとすると、各人が受け取る余剰は【表4】のようになる。

【表4】 Xにおける各参加者の余剰
総余剰: 900 (=150×6)

敗者にも分配できる取引の仕組みとは?

 総余剰は市場均衡のときの1000円から900円へと100円だけ減ってしまう一方で、取引を行うことができる参加者は4人から6人へと増えている。しかも、(そう数値を設定しているからなのだが)受益者6人が全員同じ150円という余剰を受け取っている。明らかに、市場均衡による結果(【表3】)よりもXの方がより平等な取引結果と言えるだろう。

 次に考えるYは、Xよりもさらに平等な結果をもたらす。Yでは、B1とS4、B2とS3、B3とS2、B4とS1に取引をさせる。Xと同様に、ペア毎の価格は買い手の価値と売り手の費用の平均金額としよう。このとき、参加者全員が50円を余剰として受け取ることができる(【表5】)。

 残念ながら総余剰はかなり減って400円となってしまうが、誰一人として取引からこぼれ落ちる負け組を生み出さない、極めて平等な結果と評価することができるだろう。

【表5】Yにおける各参加者の余剰
総余剰: 400 (=50×8)

 市場均衡、X、Yの三者の性質を比較した次の【表6】を見ながら、ここまでの分析をおさらいしてみよう。市場均衡は総余剰というパイを最大化する優れた仕組みである半面、その利益を獲得する勝ち組の人数が最も少ないという欠点を持つ。

 逆に、最も平等なYのもとでは、総余剰は小さくなるものの一人も負け組が出ない。さらに、政府や第三者による再分配に頼ることなく、全員で等しく利益を50円ずつ分けることに成功している。Xは両者の中間で、ある意味で両者の良いとこ取りをしているような結果と言えるだろう。このように、どの取引結果にも一長一短があることがうかがえる。

【表6】効率性と平等性のトレードオフ

 以上のような効率性と平等性のトレードオフは、勝ち組から負け組への再分配が禁止されているために生じていることに注意しよう。もしもどのような再分配も実現可能なのであれば、市場均衡によって総余剰を最大化し、それを全員で125円(=1000÷8)ずつ均等に分けることができる。

 こうすれば、効率性と平等性をどちらも損なわずに、ベストな結果を達成することができるのだ。これが、先ほど述べた二分法が成り立つ世界でのハッピーエンディングである。しかし、再分配が難しい、あるいは不可能であるという現実的な状況を考えると、【表6】が示しているようなトレードオフからは逃げることができない。

 それでは、競争的な市場が勝ち組を最も少なくする、あるいは負け組を最も多く生み出す、という市場に関するネガティブな結論は、どの程度一般的に成り立つのだろうか。紙幅の関係でここでは詳細に立ち入ることはできないが、実はほとんど無条件で成り立つ、という命題を筆者は最近証明した(関心のある方は、こちらから英語論文の草稿をダウンロードしてぜひご覧ください。証明は非常に単純で、大学院生なら間違いなく理解できます)。

 正確に言うと、次の2つの条件を満たすような望ましい取引結果の中で(通常これはたくさんある)、市場均衡は常に最も勝ち組の少ない結果と一致する、ことを明らかにした。

【二つの条件】
・取引を行うことによって損をするような参加者が一人もいない(個人合理性)
・誰の余剰も減らさずに誰かの余剰を増やすことができるような、全員にとって得になる他の取引結果を見つけることができない(パレート効率性)

 また、この発見を補完する関連命題として、右下がりの需要曲線、右上がりの供給曲線によって描かれるような通常の市場では、上の【二つの条件】を満たしつつ、市場均衡よりも多い勝ち組を生み出すような取引結果が必ず存在することも証明した。市場均衡のもとでは売買できないような売り手でも、費用が高すぎなければ、財に対して高い価値を持っている買い手を必ず見つけて(XにおけるS3とB1のペアのように)取引することができる、というのが証明のアイデアだ(【図3】のイメージを参照)。

 需要や供給が完全に水平なケースを除けば、市場均衡よりも多くの参加者をハッピーにするような結果が常に存在することを、この命題は保証している。

【図3】