【表3】市場均衡における各参加者の余剰(p^*=650)
消費者余剰および生産者余剰: 500 (=350+150)
総余剰: 1000 (=500+500)

 B1とS1が350円、B2とS2が150円の余剰をそれぞれ受け取り、全体の総余剰は1000円となる。市場価格よりも低い財の価値しか持たないB3とB4、高い費用のS3とS4は取引に参加することができないため、彼らの余剰は0円となる。

 市場均衡を実現するような「競争的な市場」は、総余剰というパイを最大化する、つまり取引に加わることのできる勝者たちの取り分を最大限に増やす一方、取引からこぼれ落ちる敗者も生み出す、という二面性を持った仕組みであることが分かる。(【図2】)

【図2】

 もちろん、勝者たちから敗者たちへの再配分、つまりパイの一部を分けることが可能であれば、取引からこぼれ落ちる参加者が出てくること自体は問題にならないかもしれない。なぜなら、次のような二分法によってきちんと対応することができるからだ。

【効率性と平等性の二分法】
1.まずパイの最大化を追求する(効率性)← 競争的な市場が自動的に達成
2.必要に応じてパイを分ける(平等性)← 政府・共同体などの政治に任せる

 実際、(筆者を含めて)多くの経済学者たちの頭の中には、こうした「効率性」と「平等性」の二分法、あるいは二段階アプローチが強烈に叩き込まれている。事後的な再分配によって、社会のニーズに適った平等な結果が(理論上は)いかようにも実現できるのであれば、経済学者がまず取り組むべき仕事は効率性の追求になるだろう。どうせ分けるなら、パイは大きければ大きいほど良い、そのために市場の歪みを是正してできるだけ競争的にすべし、というわけだ。

効率性アップ→再分配とはならない…

 エコノミストや経済学者が、「競争的な市場」や「市場メカニズム」に信頼を寄せている(一般の方からすると、過剰なまでにそう見える)背景には、こういった思考法がある。彼らがしばしば唱える、取引手数料を下げよ、価格情報を公開すべし、関税を撤廃せよ、などといった政策提言も、つまるところは効率性を高めるために「現実の経済取引を市場均衡にできるだけ近づけよう!」という試みに過ぎないのである。

 以上の二分法は、実際にやるかどうかはさておき、勝者から敗者への再分配を「やろうと思えば実現できる」状況であればかなり説得力を持つ。しかし、そうでなければその説得力は途端に失われるだろう。現実の世界で、平等な形でパイを分けることが難しい、あるいは不可能なのであれば、最初から効率性だけを追求するのではなく、より平等な結果を目指すべきではないだろうか。

 すなわち、平等性により配慮した市場制度の設計(マーケットデザイン)を考える意義があるのではないか。少なくとも、効率性だけに注目するのでなく、効率性と平等性のトレードオフくらいは意識する必要があるように筆者は感じる。

 何を隠そう、このトレードオフを明らかにすること、そして今まで(筆者の知る限り)明示的に指摘されてこなかった「市場の限界」あるいは「市場の欠点」を、専門家以外の方を含む多くの方に伝えることが、本稿を執筆した一番の動機なのである(よく知られた市場の問題点として、外部性や不完全競争、情報の非対称性などが引き起こす「市場の失敗」が挙げられる。本稿では、市場の失敗が全く無いような状況でも、市場に限界・欠点があるということを明らかにしていく)。

 では、市場均衡からこぼれ落ちた敗者たちにも余剰を与えることができるような、より平等な取引の方法はあるのだろうか。実は、そうした取引結果はきちんと存在する。以下では、市場均衡とは異なる2つの取引(それぞれX、Yと呼ぶことにする)を紹介しよう。