買い手を財に対する金銭的な評価額(価値)の高い順にB1からB4で表し、売り手を生産費用の低い順にS1からS4で表すことにする。各買い手は1単位だけ財を需要し(2つ以上は要らない)、各売り手も1単位だけ財を供給する(2つ以上は作れない)状況を考える。買い手の価値は次の【表1】、売り手の費用は【表2】で与えられるとしよう。

【表1】買い手の金銭的な評価額
【表2】 売り手の生産/供給費用

まずは「消費者余剰」について考える

 これらの表の意味をきちんと理解するために、簡単な思考実験をしてみたい。いま、仮にB1がS2から700円で財を購入したとする。この時にB1に生じる金銭的な便益は、財に対する価値の1000円と価格の700円の差である300円となるだろう。経済学ではこれを(少し格好つけて)、「消費者余剰」と呼んでいる。

 S2の便益は価格の700円から費用の500円を引いた200円となり、「生産者余剰」と呼ばれる。これら二つの余剰を足し合わせた500円がこの取引全体から生じた便益となり、こちらは「総余剰」と呼ばれている。

 さて、ここで質問。上の例で、市場全体に生じる総余剰を最大にするためには、どうやって買い手と売り手を取引させるべきだろうか? そのとき取引される財の数はいくつになるだろうか? (ここでページをスクロールする手を止めて、ちょっとだけ自分の頭で考えてみてください!) 

 買い手と売り手の組み合わせにはいくつもパターンがあるので、どうすれば総余剰が一番大きくなるのかというのは、一見するとかなり難しい問題のように見える。しかし実は、初歩的な経済学さえ学べばこの質問には即答できる(答えられない経済学部生・卒業生の皆さんは反省して、きちんと復習しましょう)。

 答えの鍵を握るのは、「需要と供給」あるいは「市場均衡」という考え方だ。経済学に馴染みがなくても、需要曲線と供給曲線の交わる、いわゆる「バッテン」の図を見たことがある、という方は少なくないだろう。「市場均衡」と呼ばれるこの交点に従って取引が行われるとき、実は市場全体で生じる総余剰は最大となるのである。

 詳細は割愛するが、これよりも数量の多い取引や少ない取引は、ともに総余剰を減少されてしまう。結局、上の質問に答えるためには【表1】から需要曲線、【表2】から供給曲線をそれぞれスケッチして、両者の交点を求めれば良い。それを行ったのが次の【図1】になる。

【図1】

 曲線がギザギザの階段状なので少し見にくいかもしれないが、市場均衡において取引される数量が2となることが分かるだろう。その際に需給を一致させる均衡価格(p*)はただ一つの金額には定まらない(600円から700円の間であればいくらでも構わない)ので、ここでは650円であると仮定して話を進めていこう。

取引からこぼれる人がたくさん出てしまう!

 市場均衡では、650円よりも財への価値の高い買い手であるB1とB2が財を購入し、650円よりも費用が低いS1とS2がその財を販売する。このとき、各参加者が受け取る余剰は以下の【表3】で表される。