米ライドシェア大手のウーバーテクノロジーズが東南アジア事業をシンガポールの同業大手グラブに売却すると発表した。両社にはソフトバンクグループが既に出資をしている。同社によるライドシェア市場の世界制覇が視野に入ってきた。

 米ライドシェア大手のウーバーテクノロジーズと、シンガポールに本拠を置く東南アジアの同業大手グラブの両社は26日、ウーバーがグラブに東南アジア事業を譲渡し、同地域から撤退すると発表した。同時にウーバーは約27%のグラブ株式を取得し、ダラ・コスロシャヒCEO(最高経営責任者)がグラブの取締役に加わる。

東南アジアで熾烈な競争を繰り広げてきたウーバーとグラブが再編に踏み切った。

 ウーバーとグラブは2013年以降、東南アジア各国で顧客を奪い合ってきた。両社のシェアは明らかではないが、グラブはこの地域の過半のシェアを握っていると主張しており、足元でウーバーはその後塵を拝していたと見られる。

 「多くのユーザーはグラブとウーバー、両方のアプリをスマホにインストールし、時々で料金が安い方を優先的に利用してきた」。東南アジアのあるベンチャー投資家はこう指摘する。双方のアプリを使い分ける傾向が強い状況では、北中南米から欧州、アフリカ、中東、東南アジアと世界中で事業を展開し、経営資源が分散しがちだったウーバーよりも、東南アジアに集中して配車ネットワークを構築し、割引キャンペーンなどを展開してきたグラブが有利に事業を拡大できた。

ソフトバンクの力技

 ウーバーは株式保有と経営参画を見返りに東南アジアからの撤退を決めているため、今回の再編は両社の痛み分けにも見える。

 ただそこには真の勝者がいる。上述の投資家はこう断言する。「今回のディールで一番の果実を得るのはソフトバンクグループだ。世界のライドシェア市場を支配しようする孫正義会長兼社長の野望は実現するかもしれない」。

 ソフトバンクグループは2014年にグラブに出資し、筆頭株主になっていると見られる。さらに今年始めにはウーバーの約15%の株式も取得し、こちらも同様に筆頭株主となったようだ。つまり今回の東南アジア地域におけるライドシェア企業の再編は、ソフトバンクから見ればグループ会社の事業再編に過ぎないことになる。ロイター通信の報道によれば、グラブのミン・マー社長も今回の再編においてソフトバンクグループの関与があったことを認めている。

 ベンチャーキャピタルにとって、同じ市場で競合する企業の双方に出資することは暗黙のタブーだという。だが孫会長兼社長はこうした慣例にとらわれることなく、ウーバー、グラブの両社に出資するという力技をやってのけた。「競合に出資しているからとソフトバンクからの申し出を断れば、その巨大な資金が競合に回るとほのめかされる。ソフトバンクは出資を受け入れざるを得ない状況を作るのに長けている」と投資家は言う。

 

 グラブにとって最大の脅威だったウーバーが撤退したことで、残る競合はインドネシアの同業ゴジェックくらいしか見当たらなくなった。今後グラブはウーバーとの競争に費やしていた経営資源をインドネシアに集中投資するだろう。ゴジェックには米グーグルや中国のテンセントが出資しており、容易には勝敗はつかないかもしれない。だが、この競争にグラブが勝ち抜けば東南アジア市場は事実上、グラブの独占化に置かれる。

次の一手はインド市場か

 次の焦点はインド市場だ。ここでは現地最大手の「オラ」を運営するANIテクノロジーズとウーバーとが激戦を続けている。

 ここでも近い将来、再編が起きる可能性がある。ウーバーは、東南アジア撤退で明らかなように欧州、米国など強みのある地域に集中する戦略をとっている。しかもソフトバンクはANIテクノロジーズにも2014年に出資している。東南アジア市場と同様に棲み分けを促すシナリオは想定できるだろう。

 既に中国では一昨年、ソフトバンクを大株主とする同国最大手、滴滴出行(DiDi)がウーバーの中国事業を買収している。中国、東南アジアに続き、インドでも棲み分けが進めば、ソフトバンク連合い相乗りする各社は隣の競合に怯えることなく市場の深掘りに集中できるようになる。

 一方、盟主であるソフトバンクには世界各地から利用者の移動状況や決済情報といった大量のビッグデータが集まる。それは自動運転やフィンテックなど新しい技術の進化と普及にとっても有益なデータであり、自動車から金融、小売りまで様々な産業のプレーヤーにとっても喉から手が出るほど欲しい宝の山だ。ソフトバンクを頂点とする巨大ライドシェア連合は近い将来、こうした領域にも多大な影響を及ぼす存在になるのかもしれない。