テレビ放送まで使って洗脳

 FTは1月30日付の「ドイツ、ロシアの次の標的か」と題した記事で、ドイツが米国よりはるかにロシア介入の影響を受けやすい危うさを指摘している。

 第1は、ベルリンの壁崩壊以降、ドイツに移り住んできた約300万人に上る独系ロシア人の存在だ。独政府や独経済界の支援もあり、彼らはかつて自由民主主義の価値観をロシアに伝える懸け橋となっていた。「彼らを中心とする活動を通じ、ロシアにも民主主義国家になってもらいたいとの狙いがあった」。だが近年、彼らの組織はドイツの政策を少しでもロシア寄りにすべく活用されるように変質しているという。

 第2は地理的近さもあり米国以上に幅広いプロパガンダ戦略を進めている点だ。ロシア政府は数年前からドイツでドイツ語のテレビ放送やオンラインニュースサイト、ソーシャルメディアを展開。メルケル首相の難民政策を批判する一方、移民問題を取り上げ排斥主義をあおったり、事実を歪曲したニュースや解説を流したりしているという。

 一連のロシアの動きが、民主主義の価値観になじみの薄い旧東独市民を中心に、独極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が支持を拡大させてきた一因だと記事は指摘している。

 ロシアが欧米の選挙に介入する裏には、西側諸国の結束を乱し、ベルリンの壁崩壊後の西側中心の国際秩序を壊し旧ソ連の勢力圏を回復させたいというプーチン大統領の狙いがあるといわれてきた。ゆえにロシアに厳しい政治家の当選を阻むことが重要で、特にクリミア併合でロシアへの制裁を欧州の指導者として主導したメルケル首相の4選は阻みたいとの思いがあるようだ。

 ロシアのペスコフ大統領報道官は1月16日、「ロシアの機関がサイバー空間の違法行為に関与することはない」と語ったが、これを信じる向きは少ない。

 110万人もの難民を受け入れ支持率を落としたメルケル首相だが、自由貿易に基づくグローバル化と民主主義の擁護者として頼りになる存在だ。今秋の独議会選挙は西側が秩序を維持していけるかどうかの試金石になろう。

(日経ビジネス2017年3月27日号より転載)