トランプ氏の狙いは4月の安倍首相訪米
では、なぜ日本は適用除外の対象にならなかったのか。実は日本も、EUが切った「貿易に関する協議」というカードを、既に1年前の日米首脳会談で切っている。麻生大臣、ペンス副大統領による日米経済協議がそれだ。そうであるならば、なぜ日本はEUと同じ扱いにならなかったのか。
それは、トランプ氏にとっては、「今回の鉄鋼の輸入制限という手段を使って、何を獲得したか」が重要だからだ。既に開始している日米経済協議では、トランプ氏にとっては意味がない。
今回、トランプ氏が日本を適用除外にした理由は、「日米FTA交渉を開始する」という新たなカードを日本に切るよう、圧力をかけていると見てよい。
狙いは4月に予定されている安倍首相の訪米だ。今回の訪米は、米朝会談を控えて北朝鮮問題に関して協議することが当初の目的だった。ところが急きょ、鉄鋼問題が浮上した。トランプ氏は、奇しくも格好のタイミングで訪米してくる安倍首相に対して、どういうカードを切るのかプレッシャーをかけている。そのカードの内容次第で、日本を除外するかどうかを最終決定することにしたのだ。トランプ氏らしい取引手法である。
トランプ氏が、次のような強烈な言葉を使ったのも、安倍首相の訪米を念頭に置いてトランプ流の牽制ボールを投げたものだ。
「日本の安倍首相らは『こんなに長い間、米国をうまく利用できたなんて信じられない』とほくそ笑んでいる。そんな日々はもう終わりだ」
まず強烈な先制パンチのボールを投げて相手のペースを乱し、不安に陥れ、非常事態だと思わせ、交渉を有利に進める。その取引のためには、どんな手段を持ち出すことも正当化される。鉄鋼問題とはおよそ関係ない問題の交渉を有利に進めるために、鉄鋼問題を交渉材料に使うことに何の躊躇もない。
これは、国家間の通商交渉の常識では考えられない「品のない禁じ手」だ。そこには理念や戦略のかけらもなく、交渉で勝つための戦術しかない。トランプ氏の頭の中は、ゼロサムのゲームの「取引」「交渉」という発想しかないのだ。
こういう発想をするのはトランプ氏本人で、側近に歯止め役がいなくなって、今はやりたい放題である。ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表やロス商務長官は、そういう大統領に従順に従い、交渉に徹するだけの役回りだ。(参照:鉄鋼規制より怖いコーン委員長の辞任)
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