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交渉術に酔いしれるトランプ氏

 まず、なぜこの7カ国・地域が除外されたのか。トランプ氏の頭の中は、恐らくこうだ。

 除外の理由は大きく分けて2つある。

 1つは、ブラジル、アルゼンチン、オーストラリアは米国にとって貿易黒字の相手国だ。「鉄鋼の輸入制限という手段を貿易赤字の是正という目的に使おう」という、トランプ氏の発想に従えば、貿易黒字の相手国は除外されて当然だろう。

 もう1つが、カナダ、メキシコとは北米自由貿易協定(NAFTA)の見直し交渉をしている。韓国とも、今年1月に米韓自由貿易協定(FTA)の見直し交渉を開始した。適用除外が一時的であって恒久的でないのは、これらの交渉において鉄鋼とは無関係な要求を飲ませるために圧力をかける交渉材料にするためだ。

 では、そのいずれでもない欧州連合(EU)はどうして適用除外になっているのか。EUは事前協議で、米国に対して「貿易に関する協議をする」というカードを切って、一時除外のカードを手に入れたのである。米国にとっては、米国のやり方を批判する日本と欧州を分断するという、交渉上の効果もある。

 いずれも、トランプ氏の頭の中の理屈は単純でわかりやすい。しかし、こうした理屈は「筋違い」である。そもそも、鉄鋼の輸入制限をしたところで、直接的には貿易赤字の是正にはつながらない。にもかかわらず、「鉄鋼の輸入制限」を交渉カードとして使って相手国に揺さぶりをかけ、鉄鋼とは関係のない分野の交渉において、有利な条件を引き出そうとしている。

 だが、その理屈が筋違いであろうがあるまいが、11月の中間選挙を控えて「交渉で有利な条件を引き出した」という実績を作りたいトランプ氏にとっては、関係のないことだ。まるで、交渉術に酔いしれているかのようである。