ダイソンがこれまでモーター開発に投じた資金は累計3億5000万ポンド(約520億円)にも及ぶ。今回のV10 のモーター開発にも5年を費やしたという。掃除機などフロアーケアの開発を担当するケビン・グラント氏は「2500以上の試作品を作って完成した『ゲームチェンジャー』だ」と胸を張る。

 ダイソン氏は、独自モーターの進化を自動車の進化と比較してみせた。自動車として必要な機能だけに絞り込み研ぎ澄まされたデザインだとして敬意を評する小型車の「ミニ」を例に挙げ、英ローバー時代の初代「ミニ」と独BMWの現在の「ミニ」の写真をスライドに映し出した。その上で、「ミニは素晴らしいクルマだが、現在のパワーまで引き上げるのに60年かかっている。我々は(同じような進化を)10年で成し遂げた」と発言した。

 クルマとモーターを、同列に比較することはもちろんできない。具体的に性能の進化を数値化した上での比較でもないようだ。それでも、発表会の直前まで自ら、スライドの内容を丹念にチェックしていたダイソン氏が、あえて愛するミニを引き合いに出してまで訴えたかったのは何か。それは、自らけん引してきたモーターなどの技術開発力をもってすれば、クルマもさらに進化させられる、というメッセージではなかろうか。

ダイソン本社に展示されている、真っ二つにされた初代「ミニ」(写真:川上真)

「足りないのは車輪だけ」

 日経ビジネスは1月15日号の特集で、「ダイソンが見たEV大競争」と題して、ダイソンのEV参入計画とダイソン流のイノベーションについて、検証した。同社は、得意とするモーター技術に加え、航行距離などEVの欠点を解決する次世代電池として期待が集まる「全固体電池」のベンチャーを買収するなどして、EVの開発を進めている。

 ダイソン氏にとってのEV参入は、大気汚染という社会課題を解決するために、サイクロン技術を使ってディーゼル・エンジンの排気ガスを浄化するフィルターを考案した30年前からの悲願だという(「ジェームズ・ダイソンがEV参入の狙いを激白」)。もちろん、全個体電池を使った革新的なEVが、計画通り2021年までに生産を始められるのかは不透明だ。英フィナンシャル・タイムズは2月15日付の記事で、ダイソンが全個体電池を使ったEVの投入時期の延期する可能性を報じている(「ダイソンEV、全固体電池先送りか」)。

 ダイソン氏はEV参入について、新製品発表会後に日経ビジネスが主催したダイソン氏と学生・社会人との対話イベントで、改めてこう語った。

 「数年前からバッテリー、ロボット、画像解析システムなどを、ロボット掃除機で使うために開発してきた。空気清浄機、エアコン、そしてモーター。不思議なことにこれらの技術は全て、クルマ、特にEVに使うことができる。我々に足りないのは車輪だけだ」

 (注:対話イベントについては後日、詳報します)

 対話イベントでモデレーター役を務めた米倉誠一郎氏(法政大学大学院教授・一橋大学特任教授)は、「日本の大企業経営者で、自社で開発している製品について、これほどの情熱を注ぎ、語れる人はいるだろうか」と話す。ダイソン氏のEV参入、そしてイノベーションを通じて社会課題を解決していこうという並々ならぬ意志は、70歳になった今でも衰えることはない。