英ダイソンの創業者ジェームズ・ダイソン氏は、新型コードレス掃除機「ダイソン サイクロンV10」の発表会で、愛する小型車「ミニ」を引き合いに出し、同社が独自開発するモーターの進化が、自動車業界の技術進化に比べていかに速いかを強調した。その真意は?

新たなコードレス掃除機「ダイソン サイクロンV10」を発表する英ダイソン創業者でチーフエンジニアのジェームズ・ダイソン氏

 「さようなら、コード付き掃除機」――。

 英家電メーカーのダイソン創業者でチーフエンジニアのジェームズ・ダイソン氏は、3月20日の新製品発表会で、そう宣言した。常に、ライバルに対して好戦的なダイソン氏は、新たに発売するスティック型のコードレス掃除機「ダイソン サイクロンV10」が、既存の電源コード付きの掃除機に取って代わると強調。ダイソン氏自身も、コード付きの掃除機の開発をやめると発表した。

 V10のウリは、電源につながなくても十分に実用に耐えうるように、最長で60分間連続で使用できるようにしたこと。エネルギー密度を高めるなどしたバッテリーシステムを独自開発し、連続使用可能な時間を従来モデルよりも20分長くした。

 発表会ではダイソンのスタッフが、ゴミに見立てた粉末などをまいた床を、V10と他社製のコード付き掃除機で実際に掃除して性能を比較するパフォーマンスを実施。吸引力の強さを比較したり、コード付きだと途中で進めなくなる状態を再現したりして、コードレスで吸引力の強いV10 の優位性をアピールした。

 恐らく、今すぐV10がコード付き掃除機を市場から駆逐することにはならないだろう。3月20日から先行発売している直営店(オンライン)での価格は、最も安いモデルでも6万9984円(税込み)、最上位機種では9万9144円(税込み)と高価で、全ての消費者に訴求できるわけではなさそうだ。

 だが、ダイソンにとっての今回の発表は、「さようなら、コード付き掃除機」という以上の意味がある。それは、昨年発表したEV(電気自動車)への参入を支える、「テクノロジーカンパニー」としての技術力の誇示だ。その最大のテーマが、EVの中核技術でもあるモーターである。

さながら「モーターの技術説明会」

 「今回のプレゼンテーションで、モーターに最も時間を割いた理由は分かるだろう?」。記者にそう、耳打ちしてきたダイソン本社の幹部が意味するところは、EV参入への布石にほかならない。実際、ダイソン氏が発表会で最も力を注いだのは、同社が「デジタルモーター」と名付けて独自に開発を続けてきたモーター技術の進化の歴史だった。

 ダイソンは、小型の掃除機を開発するにあたり、従来のモーターのようにブラシを使わず、デジタル制御で電流を高速に切り替えるデジタルモーターの開発を始めた。2004年にデジタルモーターを初めて搭載したコード付き掃除機を日本専用モデルとして発売。2009年には回転数が毎分10万4000回転、重量が150gのデジタルモーターを開発した。従来のコード付きの掃除機に搭載していたACモーターの回転数は毎分4万1000回転で、重量は800g。独自のデジタルモーターの開発で、コード付きが主流だった掃除機市場に新たな潮流を作り出していった。

 その後もダイソンはデジタルモーターの改良を続け、一時はパワーを引き上げるためにサイズが大きくなったが、9年後の今年、V10に搭載したデジタルモーターの回転数は毎分12万5000回転で重量は125g。回転数を引き上げつつ、同時に小型化も実現した。

ダイソンが開発してきたデジタルモーターの歴史(提供:ダイソン)