今回のテロ事件が経済や産業に与える影響は今のところ不透明だが、パリ同時テロの例を見れば、最も影響を受けるのは欧州の観光ビジネスとみられる。パリでテロが起きた直後、パリに向かう航空便やホテルの予約が急減したほか、周辺の観光地への客足も減った。今回、ベルギーを中心に再び同様の現象が起きる可能性は高い。

難民排斥を訴える政党には格好の材料を提供

 一方、欧州全土を悩ます難民問題では、早くもテロの騒動が影響を与え始めている。反難民を掲げる欧州各国の極右政党にとって格好の材料となる可能性が高い。

 「今回のテロで明らかになったのは、(人の移動の自由を保障する)シェンゲン協定と寛容な国境管理がいかに危ういかということだ」。テロの約2時間後、英国独立党(UKIP)のスポークスマンはこのような見解を発表した。今回のテロの実行犯が移民や難民によるものか不明であるにもかかわらず、それらを結びつけて発言した。

 狙いは当然、6月23日に実施が予定されている英国のEU離脱を巡る国民投票にある。UKIPは移民・難民排斥を訴え、EU離脱を訴えている。この見解に対しては、キャメロン首相らは「根拠がない」とすぐに反論した。

 フランスの極右政党「国民戦線」は公然と「難民の中にテロリストが紛れ込んでいる」と主張し、難民受け入れを即時停止すべきだと訴えている。

 昨年、110万人の難民が流入したドイツでも、難民排斥を訴える極右政党「AfD(ドイツのための選択肢)」が3月の州議会選挙で躍進した。今のところ難民受け入れの方針を貫いているメルケル首相の立場を、今回のテロは厳しいものにしている。

 難民に対する風当たりがさらに強くなるのを警戒し、国連などは「移民のすべてをテロリストとみなす風潮は改めるべきだ」との声明を発表したが、焼け石に水の状態だ。

 既に、EU加盟国の中で、スウェーデン、デンマーク、オーストリアなどが国境管理を復活させている。今回のテロによって、その方針がさらに厳格なものとなるのは間違いないだろう。「一致団結してテロに立ち向かう」という言葉とは裏腹に、EU加盟国同士の壁はさらに高くなっている。移動の自由を保障したEUの理念は今や、風前のともしびだ。

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