元検察官:そのため各種証拠の地道な積み上げ作業が必要になる。例えば、日頃から行動パターンを把握し、その過程で、どうもあの辺りに何の用事もないのによく通っているのは、ブツを購入しに行っているに違いないと見立てる。そこから、その場所にどんなスパンで通っているのかを把握する。

 それで、もし同じ場所に昨日行っているとなれば、今日ならまだブツを恐らく全部使いきっていないだろうということになる。

 覚醒剤使用者は購入したらすぐ使う。薬が切れかかっているから買いにいくわけで、購入したらすぐ使ってしまうので、ブツを購入しに行ったことにかなりの蓋然性があった場合、翌日ガサに入れば、覚醒剤を持っていて、かつ体の中に覚醒剤が入った状態と言える。

 被疑者の自宅への出入りの状況は、マンションなどであれば、よく玄関前に隠しカメラを設置するなどして確認している。なお、自宅などに警察官が踏み込む場合は、鍵師も一緒に連れて、すぐに鍵を開けてもらえるような状況にして入ることが多い。捜索・差し押さえをするのに、玄関を閉められたままでは、相手に罪証(犯罪の証拠)を隠滅する時間を与えてしまうからだ。鍵を開けるのは捜査令状(捜索差押許可状)の必要な処分として認められている。

検察は常に裁判を踏まえて事件を捉える

証拠の重要性は分かったが、犯人逮捕が警察の役割である以上、警察はできれば早く逮捕に踏み切りたいのではないか。

元検察官:基本的に早く逮捕したい傾向は強い。その背景には、事件は次から次に起きているわけで、特定の事件に多くの捜査員を投入している体制を組み続けるのが厳しいといった事情がある。

 だが、証拠が不十分なまま逮捕すれば、結局、嫌疑不十分で不起訴となってしまう可能性がある。罪を犯した人には必ずきちんと責任をとってもらわなければならず、逃げ得は許されないはずだ。

 検事は警察と違って裁判を知っている。公判にも立っているので、裁判でどういう争いをされたらどこが困るか、あるいはどういうことを論告で言うかなど、常に裁判を踏まえて事件を捉えている。

 とにかく検察にとって失敗できない事件は、証拠の積み上げのために捜査が長期に及びがちになる。

となると、有名人の「芋づる式逮捕」はそうたやすくないと理解していいのか。

元検察官:そういうことになる。

 ちなみに、警察と検察の関係で、殺人事件については、他殺が疑われる遺体が発見された段階で警察官から検事の携帯に電話がかっかてくる。そのため検事は24時間携帯電話を放さない。連絡があれば、検事はすぐに現場に行き、状況を確認。遺体を解剖するか検死するかの判断は検事が下し、解剖や検死にも立ち会う。その間、警察では捜査本部が立っていたりするので、検事は、警察官から現在どういう状況まで分かっていて、これからどんな捜査をする予定なのか報告を受ける。その上で「こういうことを調べてほしい」と注文をつける。

* * *