HISの変なホテル、システム販売も収益源に
ロボット活用のノウハウ蓄積、5年後に1000施設へ販売
HISの「変なホテル」は、単に“変な”ホテルではない(写真:陶山 勉、以下同)
エイチ・アイ・エス(HIS)傘下のH.I.S.ホテルホールディングスは3月15日、千葉・舞浜に新たに「変なホテル舞浜 東京ベイ」を開業した。
変なホテルは、労働集約型のホテル業界において、人の代わりにロボットを駆使して生産性を向上しているのが特徴だ。2015年に長崎・佐世保にあるテーマパーク「ハウステンボス」の近隣に1号店を開業し、今回は2号店に当たる。
「『変なホテル』は、変化し、進化し続けるホテルというポリシーで作られた。今後若い人が減っていく中で、新しいホテルのビジネスモデルを作っていく」とHISの澤田秀雄会長兼社長は意気込みを語った。
「2号店目の変なホテルはエンターテイメントにこだわった」と語るHISの澤田秀雄会長兼社長
今回のホテルは全100室で、従業員数は7人でスタートする。長崎の1号店は開業当初、約30人の従業員がいたが、徐々に効率化を進めて、現在は7人まで減らせた。1日当たり、1~2人で運営している計算になる。
1号店との違いは、「東京ディズニーランド」に近いこともあり、ファミリー客を意識してエンターテイメントにこだわった点だ。フロントにある水槽には、ロボットの魚が泳ぎ、ゴミ箱や恐竜のロボットが顧客を迎える。
「変なホテル舞浜 東京ベイ」のフロントには、ロボットの魚が泳ぐ水槽やゴミ箱のロボットなどが置かれている。エンターテイメントにこだわった
部屋の内装もファミリー向け
客室も家族向けにこだわった。シングルルームはなく、定員は1人から最大4人まで。各部屋には2~3つのベッドが並び、このほかにソファがベッドになる。ソファのベッドは顧客が組み立てる仕組みだ。このほか、一部の部屋には、衣類の消臭や除菌をしたり、しわを伸ばしたりできるクローゼットも配置した。水洗いはできないが、パーク内で遊んだ後に洋服をきれいにしたいという顧客のニーズをくみ取って導入したという。
ファミリー向けの客室例(左写真)。ベッドには新幹線のグリーン車の座席で使っているマットを導入した。ベッドの間隔は少し狭いが、動かしてつなげて使えるなど、家族で滞在しやすい内装にこだわった。一部の部屋には、衣類をきれいにするクローゼットが導入されている(右写真)。
客室にはロボットの「タピアちゃん」が置かれている。客室内に入るとき、チェックイン時に入力した名前を呼んで歓迎してくれるほか、「テレビを付けて」と話しかけるとテレビのスイッチがオンになったり、明日の天気や日付なども答えたりする。1号店にも客室にロボットがあったが、音声応答の精度をさらに高めた。
客室内にあるロボット「タピアちゃん」(左写真)。話しかけると、テレビのスイッチを入れたり、空調を調節したりする。じゃんけんゲームで遊ぶこともできる(右写真)
宿泊料金は、スタンダードツイン(ベッドは2台で、ソファをベッドにして定員3人)で1室当たり1万4000円とリーズナブルな点も、家族客を意識した設定だ。「東京ディズニーランド」と「東京ディズニーシー」の1日券はそれぞれ大人7400円、子供4800円と安くない。遠方から交通費をかけてやってくる家族客にとって、ホテル代は少しでも安くしたいというニーズは強い。
月額数万円からのシステム販売
開業のセレモニーでがH.I.S.ホテルホールディングスの平林朗社長が、新たな収益源としてホテル事業者向けのシステム販売に力を入れていく方針を明らかにした。
ホテルの事業会社であるH.I.S.ホテルホールディングスの平林朗社長。同社は「変なホテル舞浜 東京ベイ」をはじめとする13のホテルの運営を手掛ける。
ホテル運営で培ったノウハウを生かして、例えばチェックインなどのシステムをパッケージ化して、ホテル事業者に販売する。月額数万円から、オプションを付けても10万円までで提供することを検討しているようだ。こうしたシステムは5年後に1000施設への提供を目指す。
台湾のホテルチェーンも買収
一方、自社が運営するホテルは2017年で30施設、2021年までに100施設を目指す。直営のほか、フランチャイズの展開やM&A(企業の合併・買収)も含む。
3月21日、H.I.S.ホテルホールディングスは、台湾で16施設を展開するホテル会社を子会社化することを発表した。16施設のうち、1施設は「変なホテル」への転換が決定している。これを契機に、上海などへの進出に弾みを付けたい考えだ。
ホテルのタイプも複数用意する。変なホテルは、今回発表したようなエンターテイメント色の強いタイプだけでなく、出張などのビジネスパーソン向けのタイプも開発する。さらに札幌や長崎などで展開している、従来型の人の手によるサービスを売りにした「ウォーターマークホテル」など、立地に合った開業を目指す考えだ。
「既存のホテル業界になかったビジネスモデルを提供することで、ゲームチェンジャーになる」と平林社長は強調する。かつて旅行業界に変革を巻き起こしたHIS。ロボットホテルという新しいカテゴリーを生み出したのに続き、今度はそれを横展開して人手不足という業界が抱える課題を解決しようとしている。
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