2000年代初に、電機労連が会社との交渉で作り上げた新裁量労働制は、深夜・休日に働く場合の多い長時間労働のプログラマーやシステム・エンジニアが対象である。自らの裁量で働き、時間の空いた時には少しでも長く休むことが容易になるように、労働時間と切り離された定額の報酬である「裁量手当」を定めた。これはいわば残業代のない管理職の手当に相当し、本給・調整給の約3割が相場であった。

 こうした先進的な労働組合の主導で作り上げた仕組みを、深夜・休日の割増残業手当を守らない労働基準法違反として摘発し、働き方の改革に結び付けなかった当時の近視眼的な労働基準監督行政が悔やまれる

 また、類似の仕組みはほかにもある。例えば、働く時間が不規則なマスコミ業界等では、みなし残業時間分の手当てを毎月一定額支払う制度が運用されている。これも現行法上、厳密には違法行為となる。これを現場の実際の働き方に合わせて法律を改正しなければ、見かけ上の違法行為がまん延することになる。

労働市場の流動化は労働者にとってもプラス

 こうした状況で、労働時間と報酬との関係を完全に断ち切った「高度プロフェショナル制度」等を含む労働基準法改正案が2015年に国会に提出されたが、未だ法制化されていない。これは高度な技能を持ち、自らの裁量で働く労働者について、時間に比例した残業手当規制を適用しない米国型の「ホワイトカラー・エグゼンプション)」に類似したものである。

 しかし、企業間を自由に移動する欧米の専門職労働市場と日本の労働市場との間には大きな違いがある。このため2015年の改正案では、年収が少なくとも1000万円以上の、企業との交渉力の高い労働者に対象を限定した上で、年間104日の休業日数を与える使用者の義務等の健康確保措置を設けていた。これは社員がひとつのプロジェクトに集中して働いた後はかならず連続して休暇を取ることを促し、疲労を蓄積させないことを法律で担保する仕組みである。

 少子化の進展で労働力が減少することは、労働者にとっての「売り手市場」を意味する。日本では労働市場の流動化に対しては、「企業のクビ切りの自由化」という否定的なイメージが強いが、それは労働者にとっても「労働条件の悪い企業からの脱出」を容易にすることでもある。長労働時間是正のためには、「雇用保障のために生活を犠牲にする」現行の働き方だけでなく、「働き方の質の高い企業に移る」労働者の選択肢を増やすことが基本となる。労働時間制度の改革は、労働市場の流動化を促す同一労働同一賃金等、他の制度改革と一体的に行うことで、いっそう大きな相乗効果を持つと言える。