レゴの新CEOに就任したバリ・パッダ氏(中央)。(写真:永川智子、以下同)
デンマークの玩具大手レゴが、過去最高益を再び更新した。同社が3月9日に発表した2016年12月期の決算は、売上高が前期比6%増の379億3400万デンマーククローネ(約6220億円)、営業利益が同1.6%増の124億4800万クローネ(約2041億円)。増収増益記録も11年連続に伸ばした。
2016年は335種類の新製品を出荷。「ニンジャゴー」「シティ」「スターウォーズ」などの既存のヒットシリーズに加え、アプリと連携して遊ぶ「ネクソナイツ」シリーズを新たに投入。これらが業績に貢献した。中国に建設した新たな生産工場を昨年11月から本格稼働させ、2ケタ成長を続ける同国市場のビジネス拡大を加速させる。
今年も既に、2月公開の映画「レゴバットマン ザ・ムービー」が欧米でヒット中だ。4月には、レゴの親会社が約30%出資するマーリン・エンターテイメンツが運営する「レゴランドジャパン」が名古屋で開業する。9月には、レゴブロックの新たな体験施設「Lego House(レゴハウス)」を、本社のあるデンマークのビルン市にオープンする計画だ。
同社はさらなる成長機会をうかがうが、その一方で成長率の鈍化も指摘されている。売上高の成長率は15年12月期の25%増に対し、16年12月期は1ケタ台にとどまった。営業利益の伸び率も大幅に下がった。従業員は2016年末で1万6836人と、過去5年で5000人以上増加。急速な組織拡大と軌を一にして、レゴが経営危機に陥った2000年代前半の状況を知らない社員も増えている。
今年1月、レゴ再生の立役者である、ヨアン・ヴィー・クヌッドストープ氏が退任し、新CEO(最高経営責任者)としてバリ・パッダ氏が就任した。CEOの交代は13年ぶり。新体制を発足させたレゴは今後も成長を持続できるのか。パッダ新CEOが、日本メディアのインタビューに初めて応じた。
(聞き手は蛯谷 敏)
バリ・パッダ(Bali Padda)氏
1956年生まれ、インド出身(現在の国籍は英国)。2002年にレゴ入社し、2005年からレゴのグローバル・サプライチェーン改革を担当。2011年にCOO(最高執行責任者)。2017年1月、非デンマーク人として初のレゴCEO(最高経営責任者)に就任した。
2016年12月期の決算も、売上高・営業利益ともに好結果に終わりましたね。
パッダ:2016年も、とても満足のいく結果を残すことができたと思っています。330超の新製品を市場に投入できたことを誇りに思います。ただし、個人的には、多くの子供たちにレゴの楽しさを届けられたことを、それ以上に嬉しく思っています。
今年に入っても、2月に公開した「レゴバットマンムービー」がヒットを記録していますし、秋には「レゴニンジャゴームービー」の公開が控えています。年後半には、レゴをプログラミング言語で動かす「Lego Boost(レゴブースト)」などの新シリーズの投入を予定していますし、9月には本社のあるデンマークのビルン市に「Lego House」と呼ぶ、新たな体験施設をオープンします。子供たちが喜んでくれそうな仕掛けを色々と準備しています。
日本では4月に、我々の親会社が出資するマーリン・エンターテイメンツが名古屋にレゴランドを開業します。日本での関心も今年は高まると期待しています。
レゴ本社のあるデンマーク・ビルン市に建設中のレゴ体験施設「Lego House」。2017年9月にオープンする予定。
好調な業績が続く一方で、成長率は鈍化しつつあります。
パッダ:それはご指摘の通りです。ここ5年ほどは、我々も驚くほどの急成長が続きました。もちろん、これはレゴ社員の頑張りによるところが大きいと思います。
ただし、この勢いが未来永劫続くとは思っていません。今後は、急成長ではなく「sustainable growth(持続的な成長)」が続くことになると思います。グローバル企業として、長期的に着実に成長していくという意味です。
今年1月に新CEOに就任しました。前CEOから何を引き継ぎ、何を変えるつもりですか。
パッダ:(前CEOの)ヨアン・ヴィー・クヌッドストープ氏は、2000年代の経営危機からレゴを見事に再建しました。ここ5年は組織や拠点を拡大し、レゴをデンマークのローカル企業から、グローバル企業にするための施策を次々と打ってきました。
4月からマネジメント体制を変更
CEOとしての私の役割は、これまで進めてきたグローバル体制を完成に導き、レゴを持続的に成長ができる会社に発展させていくことです。
社員に求めることは、前CEOと何ら変わりません。レゴの経営方針である「未来のビルダー(クリエイター)を育む」というコンセプトをこれからも追い求めてほしいということです。レゴのミッションも、バリューも変えるつもりはありません。
ただし、マネジメント体制については、これからもこまめに見直していく必要があると考えています。規模拡大に伴い、役割を分担していかなくては、効率的な経営ができなくなってしまうからです。
具体的には、5人体制で運営してきた「マネジメントボード」を今年4月に廃止します。代わりに、エグゼクティブ・リーダーシップ・チームと呼ぶ7人で構成する新たな経営体制を敷きます。従来のマネジメントボードのメンバーであるCEO、COO(最高執行責任者)、CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)、CCO(チーフ・コマーシャル・オフィサー)に加えて、2つの最高職を追加します。
1つは、CBTO(チーフ・ビジネス・トランスフォーメーション・オフィサー)。グローバルなビジネス体制を考える専任者で、規模が大きくなってもレゴの理念を社員に浸透させる経営の仕組みを企画してもらいます。
2つめは、CPO(チーフ・プープル・オフィサー)で、人材開発や職場環境のありかたを考えるポストです。従来はCOOが担当していましたが、専任者を置くことで、よりきめ細かい対応をしてもらうことにします。
レゴは社員が1万6000人を超え、明らかに成長のフェーズが変わりました。新たな経営チームは、コミュニケーションを綿密にとりながら、役割を分担して経営にあたっていく考えです。
世界各国の拠点についてはどうですか。
パッダ:2015年から順次、世界にリージョナルハブと呼ぶ拠点を設置し、地域の統括機能をもたせています。現在はロンドン、エンフィールド(米国)、シンガポール、上海に拠点を置き、世界各国の市場に対応しています。
グローバル化に対応するために不可欠なレゴブロックの生産体制の増強も、メドが立ちつつあります。デンマーク、ハンガリー、メキシコに加え、昨年から中国の工場も本格稼働させました。これにより、アジア地域での供給拠点が整いました。中国をはじめとするアジア地域での展開をさらに急ぎたいと考えています。現在のレゴの売り上げは、全体の7割が北米と欧州からです。
穀物を原料にブロックを試作中
持続的な成長を実現するための投資も増やしていますね。
パッダ:経営危機に陥った過去を反省し、レゴは常に長期的な視点を持って成長を考えるようになりました。ビジネスモデルはもちろんのこと、社員の働きがいや環境など、あらゆる面でサステナブルな視点が欠かせません。
環境への対応で言えば、昨年、ブロックに使うプラスチックの原材料を、現在の石油からサステナブルな素材に変えていくプロジェクトを始めました。2030年までに、環境に負荷のかからない素材を開発することを目標に、10億クローネ(約145億円)を投資します。
これが試作品です。原料には、麦やトウモロコシを使っています。
サステナブル素材できたレゴブロックの試作品。原料には、麦やトウモロコシが使われている。
素人目には、既に完成に近いのではないかと思いますが。
パッダ:見た目はだいぶいい感じでしょう? でも、我々にとってはまだ完成にはほど遠いんですよ。
現在のプラスチックを置き換えるためには、色や光沢、強度などを検証する必要があります。何世代にもわたって使い続けてもブロックの品質が変わらないという条件もクリアしなければなりません。レゴは、このシンプルな形以外に、数千のエレメント(ブロックの形)がありますから、それらすべての形で条件を満たせるか、チェックしていく必要があります。
やるべきことはまだまだあるというわけですね。
パッダ:新素材を研究する研究所を本社近くに建設する計画で2019年に完成する予定です。そこに100人ほど研究者を集め、集中して開発してもらうことにしています。他の素材メーカーなどと共同で研究する考えも持っています。そうすれば、開発のコストを下げられますからね。
おそらく、あなたのお孫さんの代には使われているようになると思いますよ(笑)。
サステナビリティを高めるためのもう一つの活動は、CO2排出量の削減です。レゴは、国連のSDGs(サステナブル開発目標)に沿って、環境活動を続けています。2020年までに、自社で使う電力をすべて再生可能エネルギーで賄う目標を掲げました。
その一環として、ドイツの風力発電設備に出資をしています。今年は新たに、英国の風力発電設備に出資することを決めました。これらの設備から生まれる電力によって、ほぼ全社の電力を賄える計算になります。2020年よりも前倒しで、計画を達成できる見通しです。
スモールジャイアントな企業を目指す
CEOを退任したクヌッドストーブ氏は会長に就任すると同時に、レゴブランドカンパニーという新組織のCEOに就任しました。この組織にはどんな狙いがあるのですか。
パッダ:これも、レゴのグローバル化にともなって立ち上げた組織です。簡単に言えば、レゴのグループ内の取りまとめ役と考えてください。レゴ財団や親会社などとの連携がより大切になっています。
クヌッドストーブ氏の役割は、組織同士のコミュニケーションを円滑にしながら、レゴを全体としてひとつの方向にまとめていく役割を担います。レゴの会長も務めますから、引き続き私のボスであり続けます。
レゴは経営危機を克服し、再び成長軌道に乗りました。ですが、レゴが再び経営危機に陥るリスクは考えていますか?
パッダ:組織が大きくなると、残念ながら企業の理念やバリューが社員に浸透しにくくなるのは避けられません。それに対応するために、今回も経営体制を変えました。それでも、再び危機に陥るリスクは常に考えています。
かつて、テレビゲームが我々のビジネスを狂わせたように、これからも破壊的なテクノロジーが次々と登場してくるでしょう。技術の流れを止めることはできませんから、そうした変化にあっても、私たちの基本的な価値観を失うことなく対応していくことが必要なのだと思います。
規模が拡大しても、小さな会社の精神を常に失わないようにしたい。我々は、「スモールジャイアント」を目指していきたいと考えています。
かつて、レゴの創業者がこんな言葉を残しているんですね。「レゴを破滅に導くのは、レゴ以外にない」と。この理念の大切さを、繰り返し社内に説いていくしか方法はないと思っています。もちろん、それが簡単なことでないことは承知していますよ。
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