7月上旬、これらの成果が米科学誌に掲載され、全固体電池への関心が一層高まった。7月下旬には「トヨタが22年にも全固体電池を搭載するEVを発売する」と報じられた。本誌の取材に対し、トヨタ自身も「20年代前半の実用化を目指している」と認める。

 最近までHV(ハイブリッド車)とFCV(燃料電池車)のイメージが強かったトヨタ。そんなトヨタが昨年秋以降、EVに積極的になった背景には「全固体電池の研究開発が進んだことがあった」(トヨタ幹部)。9月末には、マツダ、デンソーとEVの基本技術を共同開発する新会社を設立することも決めた。

 こうした流れから、全固体電池を搭載するEVの商品化ではトヨタが一番乗りになりそうだとの見方が自動車業界では広がっていた。

 そんな中で出てきたダイソンの全固体電池を搭載するEVへの参入。20年までに投入できれば、トヨタに先行する可能性がある。ダイソンは全固体電池の開発を水面下で進めてきた。15年10月には、全固体電池を開発する米ベンチャー、Sakti3を9000万ドル(約108億円)を投じて買収。16年3月には10億ポンドという巨額の資金を投じて電池を開発する方針も表明した。

 掃除機などの家電向けとしてはあまりに投資額が大きいため、技術誌「日経エレクトロニクス」はダイソンがEVに搭載する可能性を早くから指摘していた。最近になってEVに全固体電池を搭載する技術的なメドがついたため、ダイソンは参入を公表したようだ。「競争が熾烈なので今はこれ以上の情報は公開せず、EVの詳細な仕様は秘密にしたい」(ジェームズ・ダイソン氏)とし、秘密裏に開発を進める計画だ。

テスラとパナの脅威になるか

 それでは全固体電池は、既存のリチウムイオン電池を置き換える存在になるのか。現時点ではまだ先行きは見通せない。安価で高性能かつ品質が安定した電池を量産するにはハードルがあるからだ。

 「リチウムイオン電池は量産技術が確立されており、大規模な投資により生産効率が高まっている。まだ量産が始まっていない全固体電池の生産性を評価するのは難しい」(自動車産業と車載電池に詳しいコンサルタント)

 今年1月、米EVメーカーのテスラはパナソニックと共同で巨大なリチウムイオン電池工場「ギガファクトリー」を稼働させた。米ネバダ州にある同工場は、1カ所で15年時点の世界中のリチウムイオン電池の生産量に匹敵する生産能力を実現する。

米テスラとパナソニックが米ネバダ州に建設したギガファクトリー

 生産する電池は、EVだけでなく、家庭、オフィス、工場向けの蓄電池にも供給。規模のメリットを追求することで、調達コストを低減し、生産性を向上させる。テスラは同様の巨大な電池工場を世界各地で10~20カ所建設する考えだ。

 EVの心臓部の電池を巡り、激化する覇権争い。新興ベンチャーと業界の盟主が火花を散らす構図は過去の常識にとらわれていては競争を勝ち抜けない時代を象徴している。