仮想通貨も価値を失う

 こうした背景から、グーグルなども量子ゲート方式の開発に手を出している。米マイクロソフトは汎用型で使えるプログラミング言語の開発に着手し、ソフトの観点から研究者の囲い込みを始めた。対応するプログラムを先駆けて用意できれば、競合を圧倒する計算能力を駆使してビジネスを優位に運べるからだ。

大規模化で「量子ゲート」の開発競争が激化
●「量子」の力を使ったコンピューターの種類

 例えば化学物質の合成だ。現在のスパコンは、メタンガスのような単純で軽い化学物質の動きしか正確にシミュレーションできていない。汎用型量子コンピューターが搭載する量子ビットの数を増やし続ければ、鉄のような重い物質やプラスチックのような複雑な物質が計算できるようになる。

 カーボンナノチューブなど軽くて強靭な化合物を途切れずに合成できれば、衛星軌道まで続く「宇宙エレベーター」の実現性が増す。二酸化炭素と水の「重合反応」を効率化できれば、石油は掘るより合成するほうが安くなる。

 量子ビットが数十億に到達すると、インターネット通信に使われる暗号が解読できる。暗号技術を使うビットコインなどの仮想通貨は価値を失う。

 だからこそ、企業だけでなく各国政府も研究に巨費を投じる。欧州連合(EU)は2016年から10年間で10億ユーロ(約1330億円)の研究資金を、汎用型量子コンピューターと関連技術に投資。日本の文部科学省も18年度予算の概算要求で、汎用型量子コンピューターの開発などに32億円を要求した。

 一方、「化学反応のシミュレーションと暗号解読のほかに、産業的に影響を与えそうな用途が見つかっていない」(東工大の西森教授)のも事実。想像を超える計算能力をどう扱えばよいのか、専門家ですら頭を悩ませている。

 だが足踏みしている余裕はない。IBMは6カ月で量子ビットを3倍以上に増やした。この成長スピードが続けば、8年後には全ての暗号を解読する量子コンピューターが登場する。

 量子コンピューターの高速化はこれからが本番だ。技術開発で先行した国や企業は、競合が追いつけないほどの優位性を獲得しそうだ。