国内全工場でずさんな検査体制が発覚した日産自動車。国から受託していた最終検査を無資格者がしていた。再点検のために約121万台をリコール、250億円規模の費用負担が生じる見込み。仏ルノーとの連合に三菱自動車を加え、今年上半期に世界販売首位に立った日産。慢心はなかったか。
(日経ビジネス2017年10月9日号より転載)
10月2日にリコールを発表し、謝罪する西川廣人社長(写真=共同通信)
「販売現場の士気が低下している」。日産自動車系列の販売会社幹部が嘆く。10月2日に新型EV(電気自動車)「リーフ」の発売を控えた矢先に発覚した、日産工場のずさんな検査体制。「まさに出はなをくじかれた思いだ」
日産は9月29日、追浜工場(神奈川県横須賀市)など国内にある6つの完成車工場すべてで、出荷前の最終検査を無資格の従業員がしていたと発表した。9月18日以降の国土交通省による抜き打ち検査で見つかったという。「リーフ」の発売日の10月2日には再検査のために約121万台をリコール(回収・無償修理)すると発表。西川廣人社長は同日の会見で「新車をアピールしていく段階での今回の事案。影響を最小限に食い止めたい」と悔しさをにじませた。
出荷前の「完成検査」は本来、国が行うべきものを完成車メーカーが肩代わりするものだ。ブレーキのかかり具合など、国が定めた項目をチェックする。検査員は国の指針に基づいて認められた有資格者に限られる。
補助検査員に任せたワケ
ただ、実際の検査現場には、資格取得のため研修中の「補助検査員」もいる。補助検査員がチェックしても、当然、最後にお墨付きを与えるのは有資格者だ。ところが日産の工場では、完成検査をこの補助検査員に任せるケースがあった。日産によると、完成検査に従事しているのは約300人。うち、約1割が補助検査員だった。
日産側は「補助検査員でも必要な検査項目をすべてチェックしており、安全性に問題はない」と強調する。同社と取引する部品メーカー幹部も「完成検査はそれほど高い技能を必要とするとは思えない。品質そのものには問題がないだろう」との見方を示す。
それでも、国が決めたやり方を無視した事実は重い。会見で西川社長は「(リコール費用が)250億円以上になることを覚悟している」と話した。何よりも人命を預かる商品を提供しながら、安全を軽視している印象を消費者に植え付けかねない。
仏ルノー、日産、三菱自動車の3社連合の強みは効率重視の経営だ。効率を追い求めるあまり、検査現場で法令順守の意識が欠落していた可能性もある。
今年1~6月期の世界販売台数が3社連合でトップに立った日産。テレビCMで歌手の矢沢永吉さんが「やっちゃえNISSAN」と先進技術をアピールしてきたのに、思わぬところで、やってしまった。慢心が生んだ代償。同じ問題が日産以外にも飛び火すれば、日本の自動車産業の信頼は根底から揺らぐことになる。
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