情報格差がおとりの隠れみの

 そこで今回、日経ビジネス編集部は不動産テック会社のイタンジ(東京都港区)に、おとり物件商法に関するデータ集計を依頼した。

 イタンジでは、消費者の代わりに最新の物件空き状況を仲介会社に直接確認するサービス「Nomad(ノマド)」を提供している。ノマドを使って2015年11月から今年11月まで、延べ4万1057件の物件を確認した結果、全体の50.08%が「成約済み」物件で、借りることができない状態だったことが分かった。

 リクルートが運営する「SUUMO(スーモ)」で43.69%と、主要な不動産情報サイトでも軒並み4割を超える物件が成約済みだった。

 もちろん成約済み物件のすべてがおとり物件というわけではない。消費者が依頼するのは、割安で立地が良いなどの人気物件が多く、わずかな時間差で契約が決まることも起こる。ただ、今回の調査は、消費者から問い合わせがあったその日のうちに仲介会社に確認したものに限っており、「成約済み」との回答があったほとんどがおとり物件だったとみるのが妥当だろう。

 おとり物件商法は宅地建物取引業法や景品表示法で「誇大広告」に当たる違法行為。ただ、消費者が特定するのは至難の業だ。

 大学入学に合わせて上京した女子学生。東京都渋谷区の不動産仲介会社に、興味を持った三軒茶屋周辺のワンルームマンションについて問い合わせたところ、「その物件はまだ空室で内見可能なので、来店してください」と言われた。

 休日に訪問すると、担当者は開口一番、「その物件はちょうど今日埋まったんです。でも他の物件があるので見てみませんか」と持ちかけられた。女子学生は紹介された他の物件を内見したが、気に入らず、その日は帰宅した。

 後日、「三軒茶屋のワンルームは内見可能」と言う別の仲介会社を訪問。しかし実際に足を運ぶと、「今、他の人が見ており、管理会社に鍵がない」と言われ、やはり他の物件を薦められた。店頭で紹介された他の物件が気に入れば、だまされたと考える消費者は少ない。この女子学生も最後まで「運が悪かった」としか思わなかったという。

 仲介会社は実態を把握しているが、消費者にはそれが見えないという「情報の非対称性」が、おとり物件の存在を隠してきた面がある。そのため、物件情報のうちどの程度がおとり物件なのかはよく分からないのだ。

 スーモやホームズのような不動産仲介業者の情報を掲載しているサイト運営会社にとって「おとり物件はいい迷惑」。横行すれば自社サービスのイメージ悪化に直結するからだ。