トヨタグループ再編、第2ステージへ
再編の主導者、アイシン精機の伊原社長が語る「次の50年」
大手自動車部品メーカーのアイシン精機が、4月に「次の50年」のビジネスを創出する部署を新設する。7月までに強化するテーマを決める。低速域の自動運転などが候補になるとみられる。新部署にはアイシングループ各社から部長級を集め、7月に組織を拡充。来年度から大型投資を始める。
トヨタ自動車は2014年11月にグループの事業再編を発表。グループ内で重複する事業を整理・統合する方向で進められ、徐々にその成果がかたちになり始めている。次の段階として、グループ各社が次世代の事業モデルや開発領域などを設定し、具体的にアクションを起こすステージに入っている。
背景にあるのは危機感だ。昨年、トヨタ自動車は2050年にはエンジンだけで走るクルマをほぼゼロにする目標を発表した。アイシン精機の伊原保守社長は「我々に対する『変わりなさい』というトヨタからのメッセージだと受け取った」と語る。
ブレーキやトランスミッション、シートなど再編のほとんどに絡んでいるアイシン精機では、生産の移管やアイシングループ内の連携を進めている(詳しくは日経ビジネス3月21日号企業研究「アイシン精機 トヨタ系列、再編の主役」を参照)。
トヨタでは調達本部長や副社長を歴任し、グループの再編を主導した張本人である伊原氏がアイシンの社長に就任して約10カ月。再編の現状と今後の舵取りについて聞いた。
アイシン精機の伊原保守社長。トヨタ自動車の副社長から転身した(写真:早川 俊昭)
昨年6月にアイシン精機の社長に就任してから、伊原社長は「提案できる会社」というキーワードを何度も使っています。アイシン精機グループは事業領域が多岐にわたり、それが強みであると同時に、バラバラだという印象があります。
伊原:まずアイシンはトヨタ自動車向けのウエートが非常に高い。つまり、トヨタにとってアイシンが強くないと困るということが事実としてあります。シートやボディー、ブレーキ、トランスミッションなど、とにかく商品がいっぱいあるんですが、個々での競争力は弱い。それを見直したのがトヨタの事業再編です。
アイシングループに絡む事業再編は極めて順調に進んでいます。例えばシート事業。シロキ工業を完全子会社化することが先日、正式に決まりました。これまでは、アイシンとシロキがシートをトヨタ紡織に納めていたわけですが、これからは全てシロキを通して収めます。ライバルだった会社に集約するわけです。アイシンはシートに限れば「ティア2」になる。
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トヨタ再編は「ギリギリ間に合った」
伊原:どちらが何を作るかという議論はありましたけど、やはり色々な意味で競争力があるシロキに集めたほうがいいという判断です。国内工場の再配置はほぼ決まったところです。
トヨタの事業再編でシート事業はトヨタ紡織に集約される(写真:早川 俊昭)
その上で、競争力を付けるためには、設計を全体で統括した方がいいので、開発は全てトヨタ紡織に集約します。うちからは合計で90人弱がトヨタ紡織に移ります。チームとして一つにするということです。
生産についても、かなりの部分をトヨタ紡織の工場に移していきます。少し時間が掛かるかもしれませんが、海外の事業についても移す予定でいます。
従業員や仕入れ先には、説明会できっちり説明しています。基本的に、我々の再編で仕入れ先の経営に影響を与えるようなことはありません。従業員にも迷惑は掛けない。これがベースです。
再編の効果が出てくるのはいつ頃でしょうか。
伊原:全体として、原価が何%下がって、利益率はこの事業ではこれくらいになるはずだ、という目標を持って動いています。お互いの長所を生かすような形を議論しています。その目標に向かって、本当にできるかということを計算しているところ。事業が移管されて1~2年で効果が出てこないとおかしいですね。
社長は就任当時に、「事業再編の対象になった事業は競争力が弱い」と発言していました。
伊原:その通りです。
その印象は、アイシンを中から見ても変わっていませんか。
伊原:やはり再編はやって良かったと思いますね。もしやっていなかったら、どこかに押されていた可能性はあった。トランスミッションにしてもブレーキにしても、とてもじゃないけど再編をしていなかったらもっとひどい目に遭っていたという気がします。ギリギリ間に合ったというのが正直なところですね。
それは外資系の部品メーカーに押されていたと。
伊原:全部そうですね。ボディー系だと中国、台湾系の部品メーカーですし、ブレーキだと独ボッシュ、独コンチネンタル、トランスミッションだと独ゲトラグ。
「これまでの戦い方ではダメ」
「アイシングループでも似たような事業がいっぱいある」と語る伊原社長(写真:早川 俊昭)
伊原:競争力という意味では、トヨタグループの事業再編以外にも、アイシンとしてやらなければいけないことがまだまだあります。
アイシンは創業からの50年をグループで戦ってきました。小さいマネジメントで、専門集団が小回りの利く戦いをしてきた。しかし、これからの50年を戦うためには同じようなやり方ではダメ。(トヨタグループと同じで)アイシングループで似たような事業をやっている部分は変えなければならない。
例えばオートマチックトランスミッション(AT)では、アイシン精機が商用車でアイシン・エィ・ダブリュ(AW)が乗用車を手がけている。あるいはアイシン精機もアイシン軽金属もアルミ部品を作っている。要するに、事業として似ているものがいっぱいある。これは全体の方向を決めたほうがいいだろうと。
もう1つは間接部門ですね。例えば人事制度。アイシングループ主要6社は労働組合が一緒で、人事制度も一部、統一されている。昇級も昇格も手当ても全部一緒。でも、非組合員の課長以上になると各社バラバラになる。
社員数はデンソーのほうが多いのですが、人事部門の社員をグループで合計すると、デンソーの人事部門より多い。これはある程度、効率を上げられるだろうと。経理も調達もそういう部分がある。調達は一部、共同購入を始めました。いろんな部門に問題提起をしているところです。
アイシングループの連携に関しては、合理化だけでなく提案力強化の側面もあります。
伊原:リソーセスをどこに振り向けるか。例えばアイシンAWはナビゲーションを開発しています。でもこれからは徐々にそのウエートが小さくなるはずです。その時に、エンジニアをどこに投入するか。今まではどちらかというと(アイシングループ各社が)勝手にやって結果オーライでやってきた。これからは必ずアイシングループ全体としての人とお金の戦略が今まで以上に必要になるでしょう。
「トヨタの二番煎じでは売れない」
「提案できる会社」は、部品メーカーが生き残りを掛ける時代に必要なキーワードです。改めて、具体的なイメージをお聞かせ下さい。
伊原:それはやっぱり、自動車メーカーがある程度、丸投げできる会社ということでしょう。具体的には、適合試験の評価。うちは評価設備やテストコースを豊富に持っていますから、部品単品の評価だけではなく、クルマの挙動も含めて評価できる。これは自動車メーカーにとってはありがたいことなんですね。
アイシン精機のグループ3社が共同開発した電動式四輪駆動システム。トヨタの新型「プリウス」に採用された
要するに部品単品ではなく、例えばウォーターポンプだけではなくエネルギーマネジメント全体の評価ができるとか、システムとして提案できるということ。さらに、開発から含めた提案。これが、僕のいう「提案できる会社」が意味するところです。
テストコースなどの設備や評価のための体制はもともと持っていたもの。これまで提案できなかったのは、どこに問題があったのでしょう。
伊原:やっぱりトヨタの下でずっと言うことを聞いてやってきたというのが一番大きいと思うんですね。トヨタ向けに開発したものを他社に持って行って、それが売れる時代は良かった。事実として、売り上げはかなり増えた。
しかし、今は次のステージに入っています。そのお客さんに合わせた商品でないと、パートナーとして認めてくれなくなっている。自動的に、提案しなければならない時代になっているのです。
例えばトヨタの場合は、一緒に話をしながら、ある部分は教えてもらいながら長いスパンで開発を進めてきました。でも他社は違う。提案したものが良いかどうかで決まるわけです。
以前、トヨタ以外への販売について、「トヨタ向けの製品を売る地域」と「新製品を提案する地域」、「コスト競争力がある安い製品を売る地域」に分類する必要があると発言していました。どのような地域戦略を描いていますか。
伊原:会社ごとにどういった商品を売っていくかというメドがついてきました。狙うのは、「デトロイト3」(ゼネラル・モーターズ、フォード、クライスラー)と中国の現地自動車メーカー、トヨタ以外の日系メーカーですね。この3つが一番大事ですから、方向性を決めているところです。
例えば米国メーカー向けのサンルーフや中国メーカー向けの製品は、コスト競争力が必要です。トランスミッションは米国メーカー、日系メーカー向けに、これまでの製品とは別のものを提案することが求められている。二番煎じではダメですね。
「ものすごい危機感があります」
伊原:グループ連携や競争力の話をしましたが、むしろこれからの最大の課題は、次の世代のビジネスモデルとしっかり作っていくということです。
昨年、トヨタがエンジンだけで走るクルマを2050年にほぼゼロにすると発表しました。その時には、ハイブリッド車なども含むエンジンを積んだクルマは全体の5割くらいになるでしょう。一方で、電子プラットフォームやクラウドの時代が来る。その時に我々は何をやるんだと。ものすごい危機感があります。
4月1日付けで、次世代のビジネスモデルについてのプロジェクトチームを作ります。将来、我々がどこでどんなビジネスで生きていくのか。それを考える。最初は数人でスタートしますが、各社の部長級を集めて7月には組織を大きくします。
7月までに、どんなテーマで進んでいくかを大まかに決めます。7月から具体的な議論をスタートして、来年度から資本を大きく動かします。
テーマとしては自動運転も入ってくる。
伊原:当然、そうですね。我々は駐車支援に昔から取り組んでいて、低速ではパイオニア。アドバンテージがあります。ぜひ世界に売っていきたい。
アイシン精機が開発中の自動駐車システム。スマートフォンのボタンを押すと、無人で駐車できる
アイシンAWはナビも手掛けていて、技術者が多くいる。アイシン精機とアイシンAWでコラボレーションしたい。自動運転に技術者を振り向ければ、そこまで時間をかけずに開発できる。ただ、現実として画像認識技術は自前で持っていない。どこかと組んでいかざるを得ないでしょう。
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