ユニクロ柳井氏「もう一度、創業期に入った」
東京・有明の新拠点で、革命児が語るアパレルの将来像
ファーストリテイリングは3月16日、商品の企画・生産から物流、社員の働き方までを一体改革する「有明プロジェクト」の概要を公開した。
東京・有明に大型のオフィス兼物流拠点を開設。2月にオフィス部分が稼働し、これまで東京・赤坂の本部で勤務していた社員など約1000人が移動してきた。商品企画、マーケティング、生産など、ユニクロ事業に関わるほぼ全ての部署を1フロアに集めたのが特徴だ。オフィスの名称は「ユニクロシティ東京」とし、フロアを仮想の街に見立てて社員同士の活発な交流を促すことで、創造性の向上や業務の効率化などを狙う。
IT(情報技術)を活用し、ユニクロに関わる全ての仕事を根本的に変えるのも同プロジェクトの特徴だ。これまでは企画から生産、物流を経て店舗で消費者に商品が届くまで、さながらリレーのように商品と情報が移動していた。今後は消費者を中心に置き、その情報をITによってすべての事業部門が即座に共有することで、「消費者が求めるものだけを作る」(田中大・執行役員)体制を目指すという。
ユニクロシティで取材に応じた柳井正会長兼社長に、有明プロジェクトの狙いと、描く将来像を聞いた。
ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長(写真:的野弘路)
なぜ「有明プロジェクト」を進めているのでしょうか。このプロジェクトを通じて、社内にどんな変化を起こそうと考えているのですか。
柳井正氏(以下、柳井):人工知能の能力が人間を超える「シンギュラリティー(技術的特異点)」の時代が、あと25~30年でくると言われていますが、僕はもうその時代が来ていると思っています。新しい技術は使おうと思えば使えるところまできていますし、いくらでも転がっています。それを拾って利用するには、自分たちが変わらないといけない。そのために有明プロジェクトを進めてきました。
技術の進歩によって、業種による差が急速になくなっています。「製造業」や「流通業」といった従来型の産業分類は、もうすぐなくなるでしょう。服を作っている企業なのか、システムを作っている企業なのか、ということはすべて関係なくて、唯一、顧客のニーズに自分たちの得意技で応えられる企業だけが生き残っていくと思います。
そういう意味で、すべての企業が新たな創業期を迎えているんです。僕らも今、創業している最中です。これは僕だけでなく、企業全体で取り組まないとダメだと思っているので、一体感のあるオフィスを造り、ここに集まってもらいました。社員一人一人が起業家だと思って、この変化に取り組んでもらいたいですね。
「その店舗で明日何が売れるかも予測できる」
「SPA(製造小売業)」から「情報製造小売業」への変革を掲げていますね。その一環として、店頭在庫や顧客の購買動向を正確に知るため、ICチップを埋め込んだRFID(無線自動識別)タグを全商品に取り付ける方針も示しています。
柳井:世界中に36億個のモバイル端末があり、今後あらゆるものに半導体が付くようになります。それらがすべて汎用品になり、値段が下がっていく。そうなれば当然、商売のやり方は変わります。RFIDも値段が下がってきており、年内には店頭在庫をRFIDで管理できるようにしていきたいと思っています。何がどのくらい売れているかリアルタイムで共有できるだけでなく、そこから得られたデータを使うことで、「その店舗で明日何が売れるか」という予測も可能になってきます。
店舗レベルでそれが分かると、例えば週単位で考えていた商品企画・生産の流れが1日単位へと進化し、究極的にはリアルタイムになっていきます。これが実現すれば、店頭の商品が毎日入れ替わっていくことになります。そもそも、一律の「シーズン」という概念がおかしいでしょう。今この瞬間に半袖が欲しい人もいれば、日によってはヒートテックが欲しい人もいますから。
ご指摘のような商品企画・生産体制が実現すると、売れ残りが激減することで、セールによる在庫処分が必要なくなるのでしょうか。
柳井:セールはなくならないでしょうね。100%需要を読むことは現実的に不可能なので。ただ、どれくらいの値引きをするべきなのか、それをいつやるべきなのか、がより細かく分かるようになります。そうすると、規模の大小はあれ、毎日のようにどこかでセールをしているようなイメージになるかもしれません。
これまでも「消費者の好みに合わせた商品を、7日で作って3日で届ける」という理想形について言及してきましたが、それを実現する体制が整うのは、どのくらい先のことになりますか。
柳井:まだ分かりません。でも、その大部分は、この1~2年以内にやろうと思っています。物流の部分も変えていかないといけませんが、最も大きいのは社員の意識の問題だと思っています。変革できるという前提に立って、今までの仕事のやり方を見直さないといけません。物理的なことよりも、そうした社員の習慣や仕事のやり方の見直しが、大きな挑戦になると思います。
「1社で独占できる市場などない」
有明プロジェクトは物流改革も含んでいますね。
柳井:物流については「そのサービスがお客様にとってどのくらい必要なのか」をよく考えなくてはいけないと思っています。例えば、本当に注文から3時間で配送することが求められているのか、といったことです。その分のコストが価格に跳ね返りますからね。お客様のニーズをくみ取るのは一番大切なことですが、「本当に必要なのか」を精査しないまま無理難題を受け入れていくのは違うと思います。
米アマゾン・ドット・コムや米グーグルが、ユニクロの競争相手になるという指摘を以前からされています。実際にアマゾンはSPAに参入していますが、こうした会社とどう戦っていきますか。また、競合相手と比べてファーストリテイリングの強みはどこにありますか。
柳井:当然、競合することはあるでしょう。一方で、同じくらい協業することもあると思います。一つ言えることは、どこか1社だけが独占できる市場ではないということです。我々の強みは、服に関する事の全部を知っているということですね。通算で68年、このビジネスをやっているわけですから。そこに、世界中の経営者やクリエイターとの協力体制を併せ持っている。そういう企業はうち以外にはないと思っています。
いま、僕たちは自らを変えるという大きなチャレンジをしています。変化に対して受け身で対峙すると、被害を受けることになる。でも、自ら変化を起こしていけば、それを利用することができます。例えば、米ゼネラル・エレクトリック(GE)は金融業や製造業を経て、今ではネットワーク事業もこなします。それくらいの勢いで変わっていかないとダメだし、僕たちもそんな風に変わっていくと思います。
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