「チェック・アンド・バランス」が機能?

 話は急に変わるが、周知の通り、トランプ大統領の就任直後に大量の大統領令が矢継ぎ早に交付された。しかし、例えば「イスラム系国民の入国禁止」に対しては「最高裁判所=司法府」が、「閣僚任命」については「議会=立法府」が、それぞれ施行や承認に待ったをかけている。

 これを見る限り、当然とはいえ、米国憲法に書き込まれた「チェック・アンド・バランス=三権分立による抑制と均衡」の理念が機能していること、及び、制度としての米国政治そのものが麻痺したわけではないことがうかがわれる。

 米FRBはこの三権分立の理念に必ずしも位置付けられるものではないが、それでも、大統領府=行政府の動きをチェックしている様子は、心強いものに思われる。財政政策の先行き不透明感が極めて強い中、中央銀行が政権方針と一線を画し、毅然と超緩和政策の正常化を進めることは健全なことと言えよう。

 日本語では適切な訳語がなく耳慣れないが、米国政治用語には「帝王的大統領=Imperial Presidency」という表現があり、「憲法で規定された以上の権力を振るう大統領」といった意味合いで使われる。先に触れた通り、米国憲法には、政治権力の集中と暴走を回避するためのチェック・アンド・バランスの精神が盛り込まれ、大統領権限の発動などに対しては、憲法で幾重にも歯止めがかけられる仕組みになっている。

 にもかかわらず、「帝王的大統領」の概念が浮上したのは、20世紀になってからのこと。大恐慌から第2次世界大戦まで大統領を務めたルーズベルトが、これら国難に向かう中で、大統領権限の集中と強化を進めたことが最初の事例となった。大統領補佐官や国家安全保障会議(NSC)の原型が設置されたのもルーズベルト政権下でのこととされる。

 その後、帝王的状況が極まったのがニクソン大統領時代。ニクソン大統領は少数の限定スタッフによって構成されるNSCを事実上の外交政策決定機関に格上げしており、これを機に米国の外交権は完全に議会=立法府から、大統領府=行政府へ移るなどしている。その後も冷戦が続く中で、最後に帝王的大統領と呼ばれたのはレーガン大統領であった。

トランプ大統領の「帝王化」への備え

 ちなみに、この3人の大統領時代にはそれぞれ、金融政策の歴史上節目となる極めて重要な政策が打ち出されている。大恐慌の下、ルーズベルト時代にはケインズによってFRBが国債市場へ介入し長期金利を低下させる提言などがなされた。これはその後、戦費調達対応の形で1942年に実現する。ニクソン時代にはマネタリズムが影響力を高め、FRBは1970年にマネーストックや銀行信用を重視するマネタリー・ターゲティング的な方針を明らかにした。そして、レーガン時代には、マネタリー・ターゲティングから改めて金利コントロールへ移行。1987年にはM1(マネーサプライの統計の1つ)の目標値設定が中止されている。

 こうしてみると、FRBは目下、トランプが強権的に経済運営を行う「帝王的大統領」になる事態に備えているようにも見える。トランプ政権が異色の政策運営で議会と衝突し政治空白が経済を失速させるのか、あるいは、財政拡張路線が行き渡りインフレリスクが高まるのか、その見極めは未だ難しいが、それは、従前のチェック・アンド・バランスの中に留まるか、帝王的大統領になるか、の選択に重なるようにも思われる。後者の場合、歴史上の教訓は「金融政策に非連続が起きること」と言えるが、この点は別稿でもう少し検討したい。

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