調査報告書では、iemoとペロリの買収後、守安社長がキュレーション事業全体の拡大についてKPI(重要業績評価指標)を設定し、それに基づき現場が数字を拡大させることに邁進した様子が描かれている。具体的には、2社の買収から2カ月後の2014年12月、守安社長は1年で2サイトから10サイトへ増やす方針を打ち出した。10という数字については「守安氏の感覚から出た数字」という。
さらに守安社長は、具体的なDAU(1日当たりのアクティブユーザー数)や営業利益を示してKPIを設定。その数値は次第に高くなり、昨年9月の経営会議では、2020年度に向け、キュレーション事業の年間営業利益を200億円とし、DeNAの時価総額を5000億円程度まで高めるとした。こうした数値目標に関して、調査報告書は以下のように指摘している。
守安氏が示したキュレーション事業の中長期目標は、キュレーション事業を統括する村田氏らボードメンバーとの間で綿密に練られたものではなく、守安氏が決定したものであった。
(中略)当時の村田氏からすると、これらのKPIは、いずれも相当高い水準にあると思ったが、守安氏からは、設定した時価総額目標の背景などについて、明確に説明を受けたことはなかった。村田氏、及びキュレーション事業の担当者たちは、設定されたKPIの達成に向けて進んでいくこととなっていった。
守安社長が現場に高い目標設定を迫ったがゆえに、村田氏や中川氏ら事業側は著作権違反が満載のキュレーションサイトを粗製乱造していかざるを得なかった。そう読める文章だ。特に上記の「村田氏からすると、これらのKPIは、いずれも相当高い水準にあると思った」という箇所について、関係者はこう捕捉する。
「村田氏は、守安社長から指示された経営判断としてのミッションを愚直に、時に逆らいながら遂行していった。問題の責任の核心は経営トップの判断にあったわけで、会見で守安社長が『現場の責任が重い』としたコメントは、甚だ疑問に感じる」
南場会長が見せた慈悲

会見で守安社長が「私も、南場に高い目標を設定され、それをどう達成するのか、知恵を絞り、創意工夫を行ってまいりましたので、そういう意味で、高い目標自体が問題なのかと言いますと、これもまた議論があろうかと思います」と語ったように、必ずしも、高い目標設定自体が悪いわけではない。
しかし守安社長は、その一方で生じた歪みや違法行為を見逃してしまった。そのことも、守安社長は認め、反省を口にした。「問題の根は、守安社長の独善にある」。明には書いていないが、守安社長に手厳しい調査報告書は全体を通じて、そう言っているように感じた。
DeNAにキュレーション事業を持ち込み、けん引した村田氏、中川氏。2人のキーパーソンからは、問題の発覚から今に至るまで、表向きには何も語られていない。しかし2人は第三者委員会のヒアリングには応じている。対外的にも、2人から真実が語られる日はそう遠くないと見られるが、今回の調査報告書は、2人のヒアリングが色濃く反映された「予告編」なのかもしれない。
今回の会見で南場会長は、自らを戒めるように、村田氏、中川氏に対して、こう慈悲を見せた。
「(村田氏、中川氏の)2人の事業のリーダーは、一所懸命、誠心誠意、事業に打ち込んでおりましたし、このような事態になった後も、誠実に第三者委員会の調査にも協力してくれた。何か悪徳なことを企んでいるような2人ではございません」
「そういった意味では、この2人の有能な若者を正しく導けなかったDeNAの責任は極めて重いと捉えておりまして、これはずっと私たちが背負っていかなければいけないことだと思っています」
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