DeNAはキュレーション事業に際し、iemoとペロリの他に旅行関連のサイト「Find Travel」と、計3つのサイト運営会社を買収している。第三者委員会は、これらの買収について「特段の問題があったとは認められないと考える」と結論付けてはいる。しかし、これは買収自体に法的な問題がない、という意味に過ぎない。

 結果として、「M氏」が感じた不穏なリスク、特に著作権問題が後に顕在化し、大騒動となった。その点で、この最初の警告に真摯に耳を傾けなかった守安社長の責任は重いと言える。警告は他にもあった。村田氏の「処遇」についてである。

 守安氏は、(中略)2014年7月31日、南場氏らに対して、村田氏をDeNAの執行役員にしたいとの意向を電子メールで伝えたところ、①買収直後に執行役員へと登用することについて社内の公平感・納得感を得られるか、②シンガポールにおいて勤務しながら執行役員としての職務を全うできるかという懸念などが示された。

 しかし、守安氏は、(中略)社内にスピード感、健全なコスト意識、挑戦マインドを吹き込む役割を村田氏に期待しており、(中略)南場氏らも、iemo社の持つスタートアップのマインドがDeNAに注入され、DeNA社内に、失われかけていた「永久ベンチャー」の雰囲気が呼び戻されることを期待し、2014年9月19日、同年10月1日付けで村田氏を執行役員とすることが取締役会で承認された。

2015年4月、キュレーションサイトのプラットフォーム「DeNAパレット」の発表会には、村田マリ氏(左)や、MERYを運営する子会社、ペロリの中川綾太郎氏(右)らも参加した
2015年4月、キュレーションサイトのプラットフォーム「DeNAパレット」の発表会には、村田マリ氏(左)や、MERYを運営する子会社、ペロリの中川綾太郎氏(右)らも参加した

 唐突な「村田執行役員」の誕生に違和感を覚えたDeNA社員も少なくなかったというが、南場会長もそのことに懸念を示していたこと、そして、守安社長がその懸念を払拭し、説き伏せたことが上記から伺える。

 しかし、DeNAは今回、キュレーション事業のトップだった村田氏に管理監督責任を負わせる格好となった。仮に村田氏がシンガポールではなく東京勤務であったら、より現場を掌握でき、改善も迅速にできたはず。その意味で、これも当時の懸念は正しかった、ということになる。

 守安社長は13日の会見で「やはり事業責任者については、責任は重い」と村田氏について語っているが、その任命責任があるのは守安社長自身。当時の警告を看過したことが、ブーメランで自分に跳ね返ってくる形となってしまった。

グレーをクロへと変えたMERYの罪

 著作権違反の問題も、前述の通り、買収前から警告が出ていた。今回の調査報告書では、iemoの買収を前に行ったDeNA社内の法務調査にも言及している。

 (iemoの)法務調査報告書は、画像部分については、明確に著作権侵害の事実が存在することを指摘した上で、著作権の侵害状態を解消する措置を講じる必要があるとしていた。

 上記を受けて法務部は、①問題のある画像を挿入している記事を削除する、②問題のある画像を許諾を得た画像に差し替える、③画像の引用元から直接リンクをはる方式にする、といった解決策を検討した。

 (中略)こうした著作権侵害のリスクについては、iemoの法務調査報告書が完成する前から、M氏などを通じて、守安氏を始めとする経営陣にも報告されていたが、経営会議の場では、2014年8月12日に初めて正式な報告がされた。

 (中略)経営会議における討議の結果、著作権侵害のリスクへの対応を「クロージング条件として設定し、対応が完了し次第出資に応じる」ものとされ、問題のある画像については、許諾を得た画像へと差し替えるか、直リンク方式へと変更することになった。

 調査報告書でも言及されているが、他人の画像へリンクを張り、自分のサイトにその画像を表示させる「直リンク方式」は、コピーほど悪質ではないものの、「シロ」というわけでもない。直リンク方式が違法なのか合法なのか、確定した最高裁の判例などがなく、グレーであるという認識のまま、守安社長はゴーサインを出してしまった。

 さらに、あろうことか、MERYについては買収後にグレーがクロへと変わってしまった。DeNAの法務部門はMERYの買収時も、iemoと同様、著作権違反についての警告をしていたが、いつしかそれは完全に無視され、形骸化したのだ。

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