シャープは3月13日、大阪府の堺市でメディア向け懇談会を開催した。戴正呉社長は「人事政策に力を入れていく」と強調、2017年度から信賞必罰を取り入れた大幅な賞与や等級・給与制度の改革を実施していくことを明らかにした。鴻海流の信賞必罰の経営がいよいよ動き始めた。
「能力、責任、貢献をはっきりさせるためにも、信賞必罰を取り入れることが必要だ」
3月13日、シャープは大阪府堺市で記者会見を開催。記者の質問に答える戴正呉社長
シャープの戴正呉社長は3月13日、大阪府堺市で開いた記者会見で「信賞必罰」の人事制度を取り入れることの重要性をこう強調した。
2017年度から、賞与や等級、給与のなかに、本格的に信賞必罰の制度を取り入れていく。功績ある者は必ず賞し、結果を出せなかった者は必ず罰する──。シャープを買収した台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業流の人事制度が、シャープでも本格的に動き始めた。
ボーナスは平均で前年の2倍増
注目を集めたのが、年間一時金(賞与)だ。2017年度の一時金は業績に応じた査定で支給する計画ではあるが、平均で年間4カ月分支給する。2016年度実績の平均2カ月から、大幅な増額となる。なかでも、高い業績をあげた社員には最大8カ月の賞与を支給する。その代わり、最低の場合は1カ月分となる。
また、会社の業績やブランド価値の向上に特別な貢献をした社員には、一時金に加え社長特別賞を追加で支給するという。
等級・給与制度も見直す。「新入社員でも入社後にやりがいのある仕事に挑戦する機会を提供していく」(戴社長)とし、優秀者は新入社員でも大幅な給与の引き上げを実施する。例えば大卒の新入社員の場合、初任給は21万2000円だが、事業に大幅に貢献したとの査定を得た社員は最大35万1500円の給与を得ることができる。
新卒の採用数は倍増
戴社長は昨年8月の就任以降、信賞必罰の人事を徹底すると内外に発信してきた。社長に就任してからの7カ月間、人事制度の策定に力を入れてきたと言い、1月16日の一般社員への役割等級制度の導入を皮切りに、信賞必罰を基本とした人事制度の運用を本格的に開始した。
鴻海に買収されてからシャープでは若手〜中堅社員の離職が後を絶たず、現在の社員の平均年齢は50歳と高い。「優秀な若手人材の活躍を後押しする仕組みにし、年齢構成を是正する」(同)。2018年4月の採用者数は、2017年4月に比べて倍増する計画も掲げた。
社長が300万円から決裁承認
平均賞与の大幅な引き上げや採用数の倍増など、次々と新しい人事政策を打ち出す戴社長。昨年まで経営危機に瀕していた会社とは思えないほど景気のいい数字が次々と飛び出す。しかし、気になるのはそれに関わるコスト増だ。
戴社長は2017年度の人件費について問われ、細かい金額や前年比較などの明言は避けたが「問題ない」と強調。就任してから7カ月の構造改革で既に600億円以上のコストダウンができたとの成果を上げ、こうしたコスト削減で得た資金を報奨に当てていくという。
シャープの営業利益は2016年度第2四半期から黒字化。第3四半期からは当期純利益の黒字化を達成し、2017年3月期の年間経常利益も黒字化を見込む。鴻海から送り込まれた戴氏が社長に就任した後、業績が急回復しているのは事実だ。顧客との契約見直しや、鴻海とのシナジー効果による費用削減などが大きく寄与している。
300万円以上の決裁に関しては全て戴社長が見ているという徹底ぶりで、コストへの意識は高い。しかし今後は、コスト削減だけではなく、各ビジネスで実際に売り上げを上げていくことが重要となってくる。具体的な成長フェーズへの移行だ。
成長戦略は5月に発表
特に、同社が経営危機に陥る最大の原因となったディスプレー事業に関しては、中小型で有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)市場が立ち上がったり、大型では液晶パネルの過剰供給が懸念されたりと競争環境は激しくなるばかりだ。13日の会見では、同社のディスプレー技術「IGZO」を武器に、スマートフォン、車載、VR、モニター、テレビ分野で攻勢をかけていくとしたが、経営危機前との具体的な違いはまだ見えにくい。
戴社長は「成長軌道に乗るために、これから攻めの戦略に転換していく」と強調し、詳細は5月中旬に発表する中期経営計画で説明するとしている。信賞必罰の人事制度を確実に運営していくためにも、新生シャープだからこそできる具体的な「攻め」の姿勢を、社内外に打ち出す必要がある。
5月の中期経営計画の発表に注目が集まっている。
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