(以下、フィンク会長兼CEOの書簡全文)



拝啓 時下ますますご清祥のこととお喜び申し上げます。

 当社はこの数年に亘り、世界を代表する企業の経営者の皆様に書簡をお送りしています。当社のお客様の多くは、リタイアメント後の生活資金や子供の教育資金など将来に備えて投資を行っており、企業にとって最も重要なステークホルダーです。私はフィデュシャリー(受託者)として、投資の長期的な企業価値の最大化に寄与し得るガバナンスの取組みを奨励するために本書簡をお送りするものです。

 昨年、当社は経営者の皆様に、長期的な価値創造に向けた経営戦略を株主に説明いただくとともに、それが取締役会で議論と承認を経たことを明示いただくようお願いしました。多くの企業がこれに応じて下さり、具体的な経営戦略のみならず、取締役の関与など戦略策定時の厳格なプロセスをご説明くださいました。その結果、株主は企業の長期経営戦略の内容やその進捗状況を適切に評価することができるようになりました。

 過去一年の間に、低インフレやグローバル化の拡大など、長期経営戦略のベースとなっていた前提条件の多くが覆りました。ブレグジットを機に欧州のあり方が見直されており、中東情勢の混乱が世界に影響を及ぼしています。米国に目を転じると、リフレーション、金利上昇、新たな成長局面が見込まれます。また、トランプ大統領による新たな財政、税制、通商政策が経済情勢に広く影響を与えることが予想されています。

 こうした変化の根底にあるのは、グローバル化と技術革新が労働者や地域社会に及ぼす影響への反発です。私は、グローバル化の恩恵は大きく、グローバル企業は世界の経済成長と繁栄のために重要な役割を果たしてきたと確信しております。しかしながら、その果実は必ずしも公平に分配されてきたわけではなく、高度なスキルを持ったとりわけ都市部の人材に偏っていたのです。

 賃金上昇の格差に加えて、テクノロジーの進歩が労働市場のあり方を根底から覆しています。教育水準の高い従業員には新たな機会をもたらしていますが、熟練度の低い従業員の職は数百万単位で消滅しています。技術革新により役割を失った従業員の多くは、リタイアメントに向けた十分な貯蓄もありません。リタイアメント後に必要な資金の確保が、企業ではなく個々の従業員に求められるようになってきたことが、その一因として挙げられます。

 こうした動向は世界の政治経済に甚大な影響を及ぼし、世界中のほぼ全てのグローバル企業が必然的に影響を受けることになります。そのため、企業は自らを取り巻く環境の変化をリアルタイムで把握し、柔軟に戦略を適応させていくことが重要です。

 当社は本年の対話において、昨年起きた世界的な環境の変化を経営者の皆様がどのように認識して経営戦略に反映させているか、といった点に注目しています。具体的には、こうした変化が経営戦略にどのような影響を与えているのか、また新たな環境において方向転換が必要な場合にはどのような対応が考えられるのか、お伺いしたいと考えています。

 ブラックロックは、長期の視点のもと企業と対話を行っています。当社のお客様の多くは、インデックス型投資を通じて企業株式を長期的に保有しており、インデックスに特定の銘柄が含まれる限り売却することができないことから、究極の長期投資家と言えるでしょう。当社はフィデュシャリー(受託者)として、コーポレートガバナンスを特に重視しています。そして、長期的な企業価値に影響を与え得る課題について対話や議決権行使を通じて意思表明します。アクティブ運用者によるETFの活用などインデックス型投資の拡大が続く中、企業と対話を重ね、社会に広く提言していくことが長期投資家の利益を保護する上で従前以上に重要となってきています。