昨年続いたブレグジットとトランプ大統領誕生の背景に、格差社会への不満があるという指摘は多いですね。

井澤:リーマンショック以降、昨年ほど、世界でいろいろなことが起こった年はありませんでした。ブレグジットに中東情勢の混乱、そして米大統領選――。これまでも経営戦略を考えるときの重要な要素として、原油価格や為替はありましたが、いまや政治状況などを含む環境要因を踏まえて投資判断をしなくてはいけない時代になりました。

 これから我々が投資している企業と対話を進める中で、こうした変化をどう捉え、経営戦略に反映しているのかを問いかけていきます。例えば、英国に工場をもっている企業がブレグジットの進展によって起きうるリスクをどう分析し、移転や代替地の確保をどう考えているのか、といったことが重要な要素になるでしょう。

「我々が期待しているのは、あくまで長期的な成長」

書簡では短期的な配当や自社株買いをけん制しています。機関投資家として、株主還元策はありがたいはずですが。

井澤:最初に言っておきたいのは、我々は配当や自社株買いをすべて否定しているわけではありません。投資家に対するリターンはあるべきです。しかし、我々が期待しているのは、あくまで長期的な成長です。設備や従業員への投資に十分に取り組み、その上で余った資本を活用する施策として、配当や自社株買いを進めることは否定しません。成長投資とのバランスを考えずに、株主還元ばかりすることに釘を刺しているのです。日本企業は現金を積み上げていますから、もう少し成長投資をしてほしいですね。そうしないと、短期志向の投資家が「増配や自社株買いをしろ」と言いやすくなってしまいます。

短期志向の投資家、いわゆる「アクティビスト」の存在について、長期投資を志向する御社としてはどう考えていますか。

井澤:昨年の書簡で言及したのですが、短期志向でもしっかりとした分析に基づいて企業と対峙するアクティビストはいます。我々との違いは、短期でのリターンを求めるか、それを長期で求めるかの違いです。実際、投資先企業に対しての指摘は、3分の1くらい共通していますしね。我々と彼らは対立軸にいるわけではなく、その存在を否定してはいません。

 日本株はPBR(株価純資産倍率)で見ても割安になっています。日本企業はこの10年間でバランスシートをスリム化し、グローバル化で手を打つなど、非常に強くなりました。デフレ、リーマンショック、急激な円高など様々な苦労を乗り越えてきましたしね。しかし、経営者の能力によって結果は相当な違いが出ています。経営者の能力は、そのまま従業員の能力になります。そういう意味で、投資先企業のトップには「自分の次のトップ、そして将来の幹部候補生をどう育成・教育しているのか」ということを重点的に聞きたいと考えています。