600兆円の運用資産を持つ世界最大級の機関投資家「ブラックロック」が、日本の有力企業400社に書簡を送った。同社創業者、ラリー・フィンク会長兼CEO(最高経営責任者)の肉声を伝えるこの書簡は、日本企業に「従業員への積極的な投資」を呼びかける。

 日本株を20兆円以上保有し、“日本株式会社の大株主”でもある同社の呼びかけは、日本企業の経営戦略に大きく影響する。政府の働き方改革とも一致するこの主張はどこから生まれてきたのか。ブラックロック・ジャパンの井澤𠮷幸・会長CEOに、その背景と意図を聞いた。

(※ インタビューの最後に、フィンク会長兼CEOの書簡全文を掲載しています)

井澤𠮷幸(いざわ・よしゆき)氏
ブラックロック・ジャパン 会長CEO
1970年東大工学部卒、三井物産へ。2000年取締役、2008年代表取締役副社長。2009年ゆうちょ銀行社長。2015年5月より現職。69歳。(写真:大槻 純一)

働いている人が不幸せな企業が、成長できるわけがない

今年の書簡は投資先企業に対して「従業員の生活水準の向上」を呼びかけています。長期投資を重視する根幹の部分は不変ですが、例年と比べてかなり違った内容となっていますね。しかも、従業員の能力向上だけでなく、そのやりがいや満足度の重要性にまで言及しています。

井澤𠮷幸氏(以下、井澤):そういう点では、日本政府が進めている「働き方改革」と似ていますね。昨年までの書簡でも、企業に対して長期視点の成長投資を求めてきましたが、順番で言うと、まず工場などの設備投資、次にR&D(研究開発)、そして人材育成という流れでした。

 今年の書簡では、従業員が仕事に対してやりがいを感じていないと、企業の長期的な発展はないと指摘しています。これは確かに大きな変化です。従業員の能力向上だけでなく、やりがいや満足度、生活水準まで焦点を当てたのは、社会から不公平や不平等をなくしたいというメッセージでもあります。従業員にやりがいを感じさせる企業は実際に業績が伸びていますし、我々が投資先企業を評価する際にも、それを重要項目にします。

有力企業に対して、社会や環境への配慮を通じ、より公的な役割を果たすよう強調しているように見えます。

井澤:背景として、世界中で格差問題が勃発していることがあります。都市部の熟練された人にグローバル化の果実が偏っているという指摘は、これまでもありました。フィンク氏は、そうした現実に対応するため、企業がESG(環境・社会・企業統治)と真剣に向き合ってほしいと強調しています。

 投資先企業に対しては、本業の中に構造的にESGを取り入れることができているかを聞きたいと考えています。これまで、我々と投資先との対話では、ESGの中でも企業統治の部分が中心でした。今後は環境・社会の部分も合わせ、集中的に聞いていきます。働いている人間が不幸せな企業が成長できるわけがありません。日本人の一人として、我々の問いかけが、日本社会で働き方改革を加速させる一助になればと思っています。